13、学食
13
赤い髪の先輩は何を考えているかわからない。その思考が全く読めない。今度は小さな花束を持ってやってきた。
私はちょうど生徒会長と学食へ行く途中だった。
赤い髪の先輩は私にそのミニブーケを私に差し出した。
「もしかして、これ私に?わぁ、可愛い~!」
「この前のお詫び」
「お詫び?」
正直こんな物を贈られるより、授業中に拉致るのをやめて欲しい。連日の拉致はこの人が一番多い。何度やられても立ち上がる不屈の精神と言えば聞こえはいいけど、多分ただのバカ。
「捨てろ。花は虫が寄る」
「そっか!あの、お花は虫を寄せ付けるので殲滅委員会の日にはいただけません」
「えぇ!?」
生徒会長は私の手から花束を奪うと、ゴミ箱に捨てた。私は慌ててゴミ箱から花束を拾って赤い髪の先輩に返した。
「ごめんなさい!」
「枝本ぉ~!」
「あの、生徒会長には悪気はないと思うので……本当にすみません!勿体ないのでコップに水入れて部屋に飾ってください」
呆然と立ち尽くす先輩をその場に置いて、先に行ってしまった生徒会長を追いかけた。すると、聞こえるか聞こえないかの声で、赤い髪の先輩が呟いた。
「虫が苦手って何だよ?自分も虫ケラのくせして……」
その一言に生徒会長は私を通り過ぎて、赤い髪の先輩の方へ戻って行った。
「オイ、今何つった?」
「虫ケラだって言ったんだよ!」
ギャー!!虫出て無いのに喧嘩!?これはハエ叩きじゃ対応できそうにない!
「まぁまぁ、虫でも何でもいいじゃないですか」
「よくねぇ!!」
その大きな声に驚いた。怖っ!!
「俺は虫扱いされるのが一番嫌いなんだよ」
「いや、そうかもしれませんけど……そんな事よりお昼行きましょう?ね?」
「いや、こいつを黙らせる」
私が止めも無駄なんだろうけど、できれば穏便に学食まで行きたい。
「いや、もう黙ってますよ!ね?」
「黙る訳ねーだろ?バカか?」
「いいから黙って!もう黙って!」
そこへ、早乙女部長が通りかかった。天の助けだ!!
「部長!助けてください!この人が生徒会長に喧嘩売って困ってるんです!」
「ほう……虫じゃないなら好きにさせてやれ」
「そんな~!」
私この場でどうすればいいの?また巻き込まれればいいの?そんなの絶対に嫌!!
「私、先に学食行きますからね!!」
こうなったら何を言っても無駄。ここでの正解は逃げる!!私が逃げようとしたら、早乙女部長に止められた。
「待て新川。今日の当番はお前だ。放課後まで同行しろ」
「えぇ~!!虫も出てないのに巻き込まれるのは納得いかないですよ~!」
「それも自分で何とかしろ」
そんな無茶な!!とりあえず、二人の喧嘩を見守る事になった。生徒会長はもう掴みかかってる。最悪……。
「あの、当然の事言いますけど、暴力はよくないですよ。話し合いでどうにかなりませんか?お互いにごめんなさいできません?」
「できるかバカ野郎!!」
あ~そうですね、バカ野郎ですよ。掴まれてといてよく他人の事をバカ野郎呼ばわりできるなこの赤い髪の人……
私は何とか生徒会長の説得を試みた。
「生徒会長、私が代わりに謝るのでどうにかここは納めてもらえませんか?」
「お前が謝って何になる?」
「何もなりません。でも、何かになって欲しいので謝ります。それでも、何かになるかならないかは生徒会長次第です」
すると、生徒会長はその手を放して先に行ってしまった。
え……嘘……生徒会長が説得に応じてくれた。
私は慌てて生徒会長の後を追った。
「あの、ありがとうございます」
「別にお前のためじゃない。あいつを殴るのは後でもいいと思っただけだ。腹減った」
「それでも……ありがとうございます」
何だか嬉しかった。別に私のために喧嘩をやめてくれた訳じゃないし、生徒会長はその後もブツブツ文句を言っていた。それでも、血を見なくていいというのは気持ちが安らかになる。
学食では食券を買うために列に並んだ。
「お前は何食うんだ?」
「今日はカレーうどんの気分ですね」
「じゃあ俺も」
トレーに注文したカレーうどんを置いて、席を探した。ここまでは順調だった。
私は先に席にトレーを置いて座ろうとした。
「うわっ!ハエだ!!」
生徒会長のその声が聞こえた瞬間、生徒会長が持っていたカレーうどんの乗ったトレーをひっくり返した。それが私にかかった。右側の耳と首筋にかかってめちゃくちゃ熱かった。
「あっっつぃ!!」
ヤバい!カレーうどんめちゃくちゃ熱い!!私は慌ててパーカーを脱いで、一番近くの水道で首を洗った。パーカーの下に着ていたティーシャツもびしゃびしゃ。
「冷たい……」
もうすぐ5月と言えど、大自然に囲まれた稲高はまだ冷える。
それでも、学食に戻ってこぼれたカレーを拭かなければいけない。そう思って学食に戻ると、何も無かったようにそこは綺麗に片付いていた。
あれ?生徒会長は?私が生徒会長を探して学食を出ようとすると、後ろから布を被せられた。
「ちょ、このタイミング?」
また拉致られる!と思ったら、頭がすっぽりと布から出た。え……?これ、パーカー?誰の?袖の長さが手のひら1つ分くらい大きい。
後ろを振り替えると、生徒会長が立っていた。
「学食、閉まった。行くぞ」
「えぇええええ!?お昼~!」
かかったカレーうどんを流していると、学食が終わった。
最悪。そもそも喧嘩なんかしてないでさっさと学食に来ればギリギリじゃなかったのに。いや、害虫殲滅委員として生徒会長より虫に気がつけなかった私が悪い。
今日1日で自分は何もできない事を思い知らされた気がした。
私は勉強もできないし、運動もできない。喧嘩の仲裁もできないし、虫の警戒も対処もできない。
何だか……凹む。




