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11、無かった事に

11



別に生徒会長に多くを求めている訳じゃないんだけど……


だけどね、一応名目上はお付き合い。たとえ虫除けだとしても、もう少し人としての尊厳とかあってもいいと思わない?


男扱いはもうこの際どうでもいい。ただ、せめてヤンキー(しかも敵)扱いだけはやめて欲しかった。人質が助けに来た人に襲われるって何?何なの?


あの状況で生徒会長の前に立った私が悪い?私が悪いの?いや、悪いのは暴力だよね?そうだよ!とにかく暴力は良くない!


生徒会長、昨日は意外と優しい人だと思ったのに……。


その胸に抱かれた時は、とても優しく、そして少し寂しい人なのかな?そう思った。


だけど、今日の生徒会長は、保健室でのあの出来事がまるで無かったかのように無情で非情だった。


「おい、起きろ」


そう言って顔を軽く叩かれて気がついた。気がつくと、そこは職員室だった。


「えぇえええええええ!」


もう、保健室にすら連れて行かれない雑な扱い。後ろで縛られた腕もそのままだった。


「先生、新川を連れて来ました」


いや、連れて来たじゃないよ!拉致だよ!拉致!


「昨日の保健室で何も無かったと説明しろ」

「え?昨日の保健室……いや、何も無いですよ!何も……」


あれは、確実に無かった事になっていた。


「あの、私が喘息の発作か出て、生徒会長が保健室へ運んでくれたんです。それだけです」


私は先生にそう説明した。すると、生徒会長は先に職員室を出て行ってしまった。先生もそれを止めなかった。おそらくは私を連れて来ればそれで良かったんだ……。


先生は一つ大きなため息をついた。


「わかった。まぁ、もし、万が一何かあったとしても、ちゃんと隠しなさい。でないとここでは命は無いぞ?」


先生、それ……どうゆう意味ですか?


それからというもの、度々色々な人に拉致られるようになった。


まず最初に拉致られたのは、まさかの害虫殲滅委員会。いや、そこは拉致らなくてよくない?


職員室を出ると、バドミントン部の先輩達に担がれて部室に連れて行かれた。そこで何故か正座させられた。


しばらくすると、早乙女部長が部室にやって来た。


「お前……女装しない代わりに、枝本に手を出しやがったな!?」

「手ぇ出して無いです!これっぽっちも出して無いです!」

「出して無きゃ何だ?枝本が虫除けスプレーをかけられて平然としていた!」


そこ?そこなの?そりゃ虫除けぐらい誰だってするでしょ!納得いかない私に、先輩達が説明してくれた。


「新川、生徒会長が虫除けスプレーをかけるのは珍しい事なんだ」

「以前虫除けスプレーをかけた奴は殺されかけたんだぞ?」


どうやら、生徒会長は虫扱いされたと勘違いされて、虫除けスプレーにぶちギレたらしい。それからというもの、虫除けをかける命知らずはいなかった。


う、嘘でしょ……!?もしかして私、殺されかける所だった!?怖っ!今リアルに鳥肌立ったんだけど?もう生徒会長がトラウマになりそう。


「そこでだ、お前の使った虫除けが何なのか知りたい」

「え?虫除けですか?」


私は持っていた虫除けを差し出した。


「見た事の無い虫除けだな……」

「天然ユーカリオイルの虫除けですよ」


パウダーの虫除けは吸い込むと喘息の引き金になる。だからスプレータイプの、より自然な虫除けを使っていた。


「なるほど……これなら化粧品に見えなくも無いな。よし、これを毎日枝本にかけろ。これはお前の役割だ」


それにしたって、これはただの虫除け。こんなものに意味があるのかは少し疑問に思う。それでも、みんなの顔を見ると大真面目だった。わずかでも生徒会長が虫に遭遇する確率も下げたい気持ちが伝わって来る。


何度か騒動に巻き込まれて、その恐怖は身を持って体験した。だから、虫除けにすがる気持ちが理解できる。たかが虫除け、されど虫除け。


さっそくスプレーをかけに行こうと、2年生A組の教室へ行った。行ったけど、教室にはたどり着かなかった。


その前に、二人の3年生の女子の先輩に引き止められた。そして、女子トイレに連れて行かれた。


こ、これってもしかして……嫌な予感しかしなかった。入ってすぐに壁ドン。ひぃいいいいいい!!


「ねぇ、枝本と付き合ってるって本当?」

「1年の分際でどうゆうつもり?」


この学校には女子にも厳しいスクールカーストが存在するらしい。一見普通のギャルの先輩に見えるのに……女子の不良はわかりづらい。


「あ、あの、む、虫除けです!誤解しないでください!」

「はぁ?虫除け?」


二人の女子の先輩は顔を見合わせていた。


「多分……私の役割は、越智さんとかにつきまとわれないための、名目上の彼女……そんな感じです」

「まぁ、枝本は男からもモテるからねぇ~」


私はなんとかこの場を切り抜けるために、生徒会長とは名目上のお付き合いだという事をアピールした。


「でも、枝本に本気になったりなんかしたらマジでうちらが承知しないからね?」


そう言った真顔がマジで怖い……ある意味ヤンキーより怖いかもしれない。保健室での事は無かった事にしよう。じゃなきゃこの人達に殺される!!



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