鬱くしい人。
四度目だね…。
【咎】の名を奏でると…。
オリーブの葉を咥えた四羽の白鳩が空を舞った。首元に【壱】と記された首飾りをした白鳩が夫に優しく触れる。
夫は安らかな表情となった。ソレでも瞳は虚ろな儘である。欲獣は夫と連結しているからか心無しか動きが止まった。【欲獣】とは心の闇が、その身を変化させた欲望の成れの果て…。あの【欲獣】の元の人間は何を渇望していたのだろうか…。
【欲獣】は、再び夫の血液を吸っていく。マダニの【欲獣】の胴体自体が人の顔だった。その顔は吸血する度に紅潮する。表情から察するに、その顔は女性にも視えた。私には、その【欲獣】の顔には見覚えがあった。夫に嫌がらせをして【鬱病】になる迄、追いこんだ、同僚だった女性だからだ…。
そして…。私は識っていた…。彼女は夫の不倫相手でもある。
そう。夫は不倫をしていたのだった。二年の間で私が識っているだけでも三人と関係を持っていた。マダニの欲獣は三人目の不倫相手だ。私は夫を愛していた、愛していたからこそ見て見ぬ振りをしていたのである。いつかは私の元に戻ってくると思っていたし、何処かへ行ってしまっても私の帰巣本能で夫の元へ帰れるのだと思っていた。深く愛していたからこそ、許してきたと思う。
でも…。
私はマダニの【欲獣】を視る。
その欲獣は、現在、夫と連結して、血を吸い取っている。吸血行為とは、子孫を残す為の【栄養】を蓄える為の行為だと聞いた事があった…。
『四度目だね。』
私の頭上で四羽の白鳩が飛んでいる。オリーブの葉を咥えた四羽の白鳩の内の一羽、首元に【弐】と記された首飾りをした白鳩が夫に優しく触れた。
吸血され、多量の血液を失っている筈の夫の蒼白の表情が血色良くなる。
【完全回復・完全状態異常回復】
ソレが【レスト・イン・ピース】の能力である。例え、腕が千切れても…。真っ二つに引き裂かれたとしても…。【脳】が機能しているのならば、どの様な状態であろうとも【完治】させる事が出来るのだ。然し【虚人】となった夫は人間に戻る事は無かった。【レスト・インピース】では【虚人】は【虚人】と云う生命体として認識されている様だ。要するに【虚人】とは状態の異常では無いと云う事になる。
「何か云いたい事あるの?」
私は夫に問うた。
「…。」
虚人である夫から返答は無い。ただ虚ろな瞳で私を視ているだけだ。




