嗤う道化師
道化師は嗤う
眼の前にいる見知らぬ女性は顔を歪めて、僕を視ている。だから僕は淡々と真実だけを述べた。
「あの…。止めといた方が良いですよ…。貴方では僕に傷一つ付けられないですから…。」
「はぁ?」
見知らぬ女性の気質が変化する。
ソレでも…。僕の本能が告げている。あの女性では僕を殺すなんて事は出来ない。
声が聞こえる。
僕の内側から…。
心の奥から…。
『お兄ちゃんは何もしちゃ駄目…。』
『何で?』
『駄目なの。お願い…。何もしないで。』
その声は僕の声だ。
そして産まれる筈だった妹の声だ…。
【鏡面世界】
見知らぬ女性は球体の鏡面に閉じ込められた。何か喚き叫ぶ声が遠くから聞こえてくる。断片的な言葉だった。
「殺してやる。」
「巫山戯やがって…。」
「さっきからブツブツと…。」
「一人で喋りやがって…。」
「気持ち悪い…。」
プツリと僕の内で何かが切れる。
「あぁ?何て言った?御前。」
僕は球体の物体を凝視した。
『お兄ちゃん。止めて…。』
『何もしないで…。』
『お願いだから…。』
僕の内側から僕の声が聞こえてくる。
産まれる筈だった妹の声。
けれど、その声は僕の声だ…。
【ハウス オブ トーチャー】
僕は【僕の咎】の名を呼ぶ。
僕の視軸の先に朽ちた洋館が顕現され、壊れかけた扉から一人の道化師が嗤いながら出てきたのだった…。




