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発症。
あぁ。まだ死ねないな…。
人の形をした水の胸元に空いた穴から、其れは突然現れた。人型の植物だった。棘々とした頭部、茎と葉が腕と手を形作り、その手には喇叭が握られている。腰から下は霞んでいて視覚では捉えられ無い。
『あぁ…。』
私は、その姿の背景にある事柄を識っている。
この家には私の【想い】が込められていた。私の犯した罪と…。その被害者の【想い】が込められている。ソレが形を成し、私に襲い掛かろうとしているのだ。
私の犯した罪。
【私は、この家の貯水槽に…】
人型の植物が喇叭を吹いた。私の意識はグラリと揺れる。朦朧とし、幻覚が視え始める。【幽霊】が視えた。あの四人家族が涎を垂らしながら、虚ろな瞳で私を見つめる。罪悪感が膨張し、虚しさが心を満たしていった。
『生きていて良いのだろうか…。』
ふとそう想った。
その時だ。聲が聴こえた。
【なら死ぬか?】
『御前は誰だ?』
【識っている筈だ。私は御前だよ。】
『だろうな…。だとしたのなら…。』
【答えは決まってるだろ?】
『あぁ。まだ死ねないな。』
【ならば私の名を呼べ。御前はもう識っている筈だ。】
『あぁ。識ってるよ。』
私は【咎】の名を呼んだ。




