62話 住人の消えた街2
シン君昔話
(※この前書きは読み飛ばしても問題ないです)
「かつての幼いシン君は弟に連戦連敗を喫し、今の訓練ではだめだと新たな訓練方法を求め大龍山脈の頂上、常に雨雲がかかりものすごい豪雨が降る場所へ向かいました。
魔法の完成度を上げるため、本物の雷を見ようとしたのです。
強引に連れてきた弟におぶさり、これまた強引に雨雲の中へ突入するよう命令。
兄のわがままを拒み切れなかった哀れな弟は足元で炎を爆発させ、兄を連れて巨大な雨雲に突入。
中は絶えず雷が飛び交い、強風と大雨が体を煽る雨雲。
その中で時には幾重にも枝分かれしたり、時には異常に強い光を放ったり、そして時には真っ直ぐに落ちていく本物の雷を見れたことに感動したシン君は、感動のあまり恐怖で腕の力が緩んでしまった弟の背から落ちてしまいました。
さらには運の悪いことに、今まで以上に大きく速く強い光が落下中の彼に向かって落ちていきました」
休憩が終わりまずは適当に街を調べることにした。
パッと見で一番高い建物の屋根にのぼり、魔力探索を始める。
リーシュルトは王国の最南端にある街だが、特産である小麦で貿易をしていたので街の規模としては相当大きい。であるなら、ここに住む住民も相当な数がいたはずだが、それらしい魔力は無い。
メルヴィスからの手紙には、住民が街の外に移動した形跡はないとのこと。
ならば考えられるのは二通り。
何らかの魔法、例えば空間魔法などによる集団転移。
こちらは可能性が低いように見える。空間魔法に限らず大人数を一度に転移させるにはいろいろとリスクが多い。時間も魔力も想像できないほどかかるし、そこまでの魔力反応があるなら誰かしら気が付く。それこそメルヴィスが真っ先に気づくであろう。
であるなら、もう一つの可能性。
「まだ街の中にいる……だが、人間の反応は全く感じないぞ。全員死んだ?ありえなくもないが、アンデットの一つも発生しないのは不自然だろ」
この規模の街だ。さすがに俺一人の魔力探知で精査しきれると思ったのは驕りだったか?
シンは再び魔力で街に探知をかける。
人間の魔法使いでも30人はいないと探査しきれない広さの街を今度は10秒ほどかけてしっかりと調べきる。
しかし結果は変わらなかった。
「ふん。魔力探知は魔法使いのスキルとして初歩中の初歩。見逃すなんてミス、いまさら俺がするわけもない」
誰も見てない屋根の上で紫頭は謎のドヤ顔をした。
◇
「(まだ安定して飛べない……シンさんたちには置いてかれてしまったし、もっと上手に風を操れるようにならなくちゃ)」
訓練中、シンが何かをアドバイスすることはほとんどない。今はもう森の魔物はルシェルの相手ではなく、いちいちシンがお守りをする必要がないほどにはルシェルも実力がついてきた。
あとは基礎を徹底的に……という方針なのだが、それではルシェルの成長は頭打ちも同然だ。それはシンもルシェル自身も感じていた。
ルシェルもいろいろと考えている。理想へ近づくために今の自分に足りないもの。どうすればいいのかも理解はしている。ただそれはすぐに達成できるものではない。
やはりシンに認められるまで地道に基礎を積み重ねなくてはいけない段階なのだ。
「落ち着いたら、改めてシンさんにお願いしよう。今はすぐにでも追いつかないと……」
「お、きたきた。おーい!!」
「ハルカさん!?」
今一度気合を入れて……というタイミングで手ごろな岩場に座って休んでいたハルカと出会った。
ルシェルはてっきりハルカも先にリーシュルトへ向かっていると思ていたのだが、ハルカは自分が急いでいかなくても兄だけである程度解決へ近づけると踏んでルシェルを待つことにしたのだ。
実際、今回のような事件の調査系の任務ではハルカは足手まといに近い。
「僕も兄さんに置いてかれてね。ルシェルさんを待ってたんだ。一緒に行こう」
「はい。ありがとうございます。でももし戦闘になったらハルカさんもいたほうがいいのでは?」
「まだ兄さんのこと過小評価してるんじゃない?魔人でも出てこない限り何が来ても兄さん一人で魔石砕いて瞬殺だよ。瞬殺」
「過小評価なんて……」
「でも実際『僕がいたほうが』何て思ってる。ルシェルさんだけじゃない。今まで会ってきた敵もみんなそうだった。僕は常々疑問だよ。なんであの人が弱いと判断できるのか」
「私は弱いなんて……私とは比べるまでもなく、シンさんは強くて凄い魔法使い、です」
「あぁ、ごめん。最後の方はルシェルさんに言ったんじゃないよ。実際さ、単純な戦闘力なら僕の方が何倍も強いだ。魔力の量だけでも大きな差がある」
話が長くなるかもといい、隣に座るようルシェルに合図する。
「でもさ、考えても見てよ。魔力差数倍の相手に勝率3割だよ。ルシェルさんならそんな相手に勝てるイメージできる?」
魔法使いはイメージの世界。勝つイメージが出来なければ勝つことはできないと、いつかシンは言っていた。
魔力差数倍。簡単に言うが、そもそもシンの魔力量はルシェルでは測り切れないほど、そしておそらくエルフでもトップクラスだ。
そのシンの数倍。アリと比べて『数倍』と象と比べて『数倍』。
基準が変わるだけで『数倍』の意味する値も大きく変わってくる。
確かにそのレベルだとルシェルには勝つ想像が出来ない。
「確かに僕の方が強い。でもそれは生まれつき魔力が多かっただけだ。そのアドバンテージさえなければ僕は兄さんの足元にも及ばないよ。きっと……うん。それこそ『瞬殺』されるだろうね」
ハルカは生まれ持った魔力量のことをまるで自分の実力ではないように言うがそれも一つの才であると、技術も魔力もないルシェルは思う。
「兄さんはちゃんと強いよ。戦闘でそう遅れはとらない。ルシェルさんは改めて兄さんについて考えたほうがいい。気持ち悪いほどに魔法が巧いただの人でなしエルフじゃないってね」
「そう、ですね。私はまだ、シンさんのこと甘く見ていたみたいです。もっと早くにお二人に出会いたかった。そうであればきっと……」
過去を公開するようなルシェルの言葉を聞いて少しきついことを言ってしまったかとハルカは後悔した。
ルシェルが基礎訓練ばかりで焦っていることハルカにも伝わっている。現状彼女の実力が頭打ちになっているのに彼女に責はない。
ルシェルは精一杯シンから吸収しようとしているし、ほんの数か月前に出会ったばかりとは思えないほどシンについての理解度も高い。
ちゃんと成長している彼女に、少し行き過ぎた言葉だったかもと不安に思ったハルカは謝罪をしようと彼女の顔を見て、言葉を失った。
そこにあったのは自分の認識不足を悔やんで落ち込むような生娘ではなく、背筋を伸ばし凛とした眼差しで前方を眺める戦士の姿だった。
その目に映っているのは、いまだ遠い今回の目的地か、追い続けた理想の姿か。
はっきりしているのは彼女の心と意思は、揺らぐどころかさらに強かになったということ。
「ごめん」
「どうしてハルカさんが謝るんですか?」
「甘く見ていたのは僕の方だったよ。ルシェルさんはすごいね。こんなに言われても諦めようとはしてない。少しびっくりした」
唐突な謝罪できょとんとするルシェル
「いえ。そんなことは……ハルカさんの言ったことは事実ですし、ハルカさんのお陰で改めて私の目指す姿が明確になった気がします」
ルシェルは成長することに限って、ハルカの想像以上に貪欲だった。知識も言葉も技術も、成長するためになんだって吸収していく。
その姿にハルカはかつての、いや今も大して変わらない兄の姿を重ねた。
「お詫びに、もう一つ僕からアドバイスをあげよう。今のルシェルさんはかつての兄さんと同じ目をしてる。だから大丈夫さ、きっとルシェルさんは強くなるよ。それこそ兄さんに『勝てるかも』って思えるくらいに」
「ハルカさん……」
「だから焦っちゃいけないよ。今はそういう時期だ。焦って早足になって怪我をしては元も子もない。かつてそうなった兄さんを見てきた僕が言うんだ。信用してくれていいよ」
「……ありがとうございます。気が楽になりました」
「よかった。それじゃ……」
会話が終わりハルカが立ち上がった瞬間、霞みがかるほど遠いリーシュルトの方から、小さな爆発音と振動が届いた。
「噂をすればなんとやら。兄さんに怒られる前に僕たちも行こう!」
「はい!」
そうして二人は再び風を切って走り出した。
「あ、あのハルカさん!!今度、昔のシンさんの話聞かせてください!!」
シン君昔話・エピローグ
(※前書きのエピローグです。読み飛ばしても問題ないです)
「シン君の身を襲った雷はギリギリでシン君自身が魔法で防御しましたが不意を突かれたことで完全に防ぎきる事が出来ずに直撃を喰らってしまいました。ですが何とか意識をつないで、再び魔法を使って今度は落下の衝撃から身を守ろうとしました。
意識はつないだものの体はしびれて、そもそも技術は今とは比べるまでもなく雑魚。
そんな状態では衝撃を殺しきれないことは誰が見てもはっきりしていました。
もうだめかと目をつむった瞬間、落下中の体はクラゲのような水の塊が柔らかく包み込みました。
危機一髪、クソガキの姿が無いことに気が付いて大龍山脈へ向かっていたコルヴェートおじさんによって救われました。
後日、どうしてももう一度本物の雷を視たかったクソガキは、クソガキの思考はお見通しのコルヴェートじいさんと、もう迷惑は御免だという弟によって鉄拳制裁が加えられましたとさ」




