無能な人形術師
冒険者ギルドからの依頼であるゴブリンキングとゴブリンクイーン、そして大量のゴブリンたちの殲滅を無事に終えた俺たちは、このパーティのリーダーであるエマの元に自然と足が向かう。俺たち3人の中で一番早く近づいていき声をかけたのはルイナだ。
「さすがエマ! 討伐ランクAの魔物相手に圧勝だなんてすごい! さすが勇者様だね」
まるで犬のような懐きっぷりだ。銀狼族は自分より強者に対して敬意を強く持つと言う種族的特徴がある。ルイナの行動はエマを認めているからこそのものだ。
ただ、ルイナのエマに対する行動は種族的な特徴だけではないだろう。好意を向けているというのは側から見れば分かりやすい。
エマに対してよく話しかけに行くことも多いし、2人で食事や買い物に行こうと誘っていたのを見たことがある。
ルイナは冒険者ギルドの中でも屈指の女子人気を誇っている。そんな中性的な容姿を持つ美男子と、美少女であるエマが2人でいる姿は非常に絵になる。
ルイナに続いて俺とスフィリアもエマの元へと近づく。
「スフィリアも良かったよ。回復が主な神聖魔法であれだけゴブリンを簡単に倒せるならもっと強い相手もいけそうだね」
「ありがとうございます」
ルイナがスフィリアに向かって言った後今度は俺に視線を向ける。
蔑んだような視線の中に怒りを含んでいる。
「さらに引き替え……はぁー」
そんな視線を向けた後わざとらしく大きなため息をついて見せる。
「回復役のスフィリアがあれだけ戦えてお前は……戦闘も役に立たないどころか足手まといだったよ。弱いなら戦場に出てこないでほしいね」
戦闘が終わった後は必ずと言っていいほどルイナの嫌味を言われる。俺は反論するなく黙ってそれを聞く。
「荷物持ちくらいしか役に立たないなら、他のやつを雇った方が何倍もマシなんじゃないか?」
ニヤニヤといやらしく笑うルイナ。
「そうだろ? 【人形術師】だなんて無能な『職』のやつなんて……ボクたちと実力がかけ離れているのは明らかだ。今回もボクだ助けてやらなかったらどうなっていたか……」
「助かった」
素直にお礼を言う俺に対してさらに畳み掛けて来る。
「お礼なんていらないよ。自分の身の程をわきまえていたらこのパーティにはいられないと思うんだけどね?」
「ルイナっーー」
黙って聞いていたエマが俺たちの間に割って入ろうと口を開いたが、俺はそれを視線で静止する。
「エマいいよ。ルイナの言っていることは間違いではないし」
「分かっているのになんでかなぁ……まぁ、いいや。もう疲れたしさっさと帰ろうよ」
そう言って街に向かって歩き出すルイナ。そしてエマの手を引っ張てどんどん歩いていく。
その後ろを黙ってスフィリアもついていく。
俺はその3人の背中を黙って見つめた後、ゴブリンキングとゴブリンクイーンの討伐した証拠を回収した後置いていかれないように急いで走り出した。
◆◆◆
街に戻ってきた俺たちは冒険者ギルドに向かって歩いていた。
エマの隣には当然のようにルイナがいて俺たちの先頭を歩いている。
エマと並んでも同じくらいの身長か少し大きいくらいで男にしては小柄な方だろう。手足も細く全体的に華奢なイメージを抱くがその体型があの素早くてしなやかな戦闘を可能にしているのだろう。それに華奢とは言え銀狼族であるルイナは見た目からは信じられないほどの腕力を持っている。
ルイナと俺との間には大きな実力差がある。銀狼族であるルイナと俺との間には種族的な身体能力の差だ。しかし、それだけではなく神から与えられる『職』と言うものが俺たちの実力に大きく差をつけている。
ルイナの職は【盗賊】だ。【盗賊】という職は冒険者をする上で必要となる索敵や罠の察知と解除と言った能力に長けている職業だ。
本来盗賊という職はサポート役であるが、銀狼族であるルイナは一般的なそれとは異なる。
圧倒的な身体能力と索敵能力が組み合わさることでその実力を一流の冒険者へと押し上げている。
俺は職を得てから5年という歳月が経っているが、ルイナは1年前に職を手に入れたばかりだというのに既に一流の冒険者と言われるだけの実力を持っている。
種族的な差だけではなく職が大きく影響しているのはエマを見ればよくわかる。
俺と同じ人種であるエマは勇者という職を得ていることから身体能力も魔法の力も圧倒的だ。俺のような非戦闘職である【人形術師】とは職としての格も違う。
職というのは俺たちの人生を大きく左右するのだ。
しばらく歩くと冒険者ギルドの前に到着する。
「ボクたちは先に店に行ってるからお前がギルドへの報告を済ませて来てよ。今回も散々足引っ張ったんだからさ。これくらいはできるだろ?」
「分かったよ」
俺の答えに満足したのかそのまま打ち上げの店へと歩き出す。
「よろしくお願いします」
スフィリアもそれだけ言うとルイナについて歩き出す。
「ごめん」
申し訳なさそうにするエマに笑いかける。エマは全く悪くない。
「前にも言ったがエマが気にする必要はない。これは俺のせいなんだから」
「でも……」
「いいんだ。俺に任せてくれ」
「うん、わかった。先に行っているね」
「すぐ行くよ」
エマと話していると先に歩いていたルイナがこちらに振り返りエマを呼ぶ。
「エマ! そんなやつ放っておいて早くきてよ!」
エマに頷きかけるとエマはルイナの方へと歩き出す。その後ろ姿が見えなくなったところで俺はギルドに向かって歩みを進めた。




