613 恋の力
ラァァブ!
「兄さん、少しいい?」
夕飯を終えてから、遥香と千鶴、そして愛香さんが一緒にお風呂入ることになって向かったのを確認していてから、海斗がそう話しかけてきた。
「いいよ。お茶でも入れるから」
「ありがとう」
片付けもあらかた終わってるし、時間もあったので久しぶりに弟と2人で話すことにする。前の時は愛香さんも居たから、2人きりは久しぶりかもしれない。
「・・・あの人は、こっちには来ないのかな」
俺の入れたお茶を飲んでからポツリと聞いてきたのは、父さんのことだろう。本家には何年も里帰りしていないから、仕方ないけど。
「多分、父さんはこっちに来る気はないと思うよ」
「・・・どうして?」
「父さんはね、多分、次にここに来る時は母さんと同じお墓に入る時だって思ってるだろうからね」
推測でしかないが、母さん一筋の父さんのことだ。きっとこっちに来ると早く向こうに行きそうになるから、我慢してるのだろう。
「・・・やっぱり変だよ」
「かもね。でも、確かなこともあるよ」
「・・・それは?」
「父さんは、母さんのことをずっと愛してる。そして、俺や海斗のことも息子として愛してるってこと」
だから、向こうに行きたくなるのを我慢して俺達を見守ってるのだろう。母さんが望むようにきちんと天寿をまっとうして、堂々と母さんの隣に行きたいのだろう。
「・・・最初ね、僕、愛香のこと大して気にして無かったんだよ」
「そうなんだ」
「ただのクラスメイト、いつも僕に寄ってくる女と一緒だって思ってた。でもね・・・」
休みの日に、偶然電車に乗ってた時のこと、痴漢されてる愛香さんを助けてから、彼女にストーキングされるようになったらしい。それ自体はたまに海斗も経験があるのだが、決定的に違ったのは彼女のストーキングの仕方だったらしい。
「いつもなら、身勝手に押しかけたり、自分の欲望をただ満たそうとする奴らばっかりなのに、愛香はいつも本気で僕のことを考えてくれてたんだ」
だから、気になっていつの間にか恋に落ちてたらしい。
「こんなねじ曲がった僕だから、たまに素直になれなくて辛く当たっちゃうのに・・・気にしないで側にいてくれるんだ」
「そっか」
「僕ね・・・少しだけ、あの人の気持ちが分かった気がするよ」
どうやら、我が弟はあの少女に多大に救われたらしい。やはり恋の力とは凄まじいものだ。まあ、俺も遥香と千鶴への気持ちが無かったら変われなかっただろうけどね。
離れる心配は無さそうだが・・・というか、愛香さんが離さなそうだが、まあ、弟のことを任せられそうで少し安心したのだった。




