584 母性の兄
母性
「さて、2人ともお昼一緒にどう?」
時間的にお昼時となったのでそう提案すると、海斗は嬉しそうに頷いて言った。
「兄さんの料理久しぶりだから楽しみ」
「愛香さんもそれでいい?」
「はい。あの、私もお手伝いしてもいいですか?」
「別に構わないけど・・・海斗とまったりしててもいいんだよ?」
「とっても素敵な提案ですが、今は少しでもお義兄様から学んで海斗くんを喜ばせたいのでそちらを優先します」
なんだろ、俺地味にこの子みたいなタイプ嫌いじゃない。ストーカー気質も確かに備わってるのだろうが、かなり純粋な愛を持ってるのでそういう人は好感が持てる。
「分かった。じゃあ、手伝ってくれる?」
「はい」
そうして2人でキッチンに移動してお昼を作る。今日は海斗が大好きな料理の一つ、肉じゃがを作る予定だ。俺がいつも通り作業をしていると、手伝ってくれている愛香さんは驚いたような顔をしていた。
「どうかしたの?」
「いえ・・・お義兄様、本当に手馴れてますね」
「まあ、小さい頃から作ってたしね。昔は海斗と父さんに、今は妻と娘にね」
「まだまだ勝てませんね・・・」
少し気落ちする愛香さんに俺は苦笑して言った。
「いや、多分既に勝ってはいるよ」
「え?」
「だって、女の子が苦手な海斗が好きな女の子連れてきた時点で俺はかなりびっくりだったしね。そんな女の子の料理なら海斗は俺のご飯より美味しいと感じるはずだよ」
愛情に勝るスパイスはないしね。
「愛香さんが良ければ、後で海斗の好物のレシピとコツを紙にまとめて渡すよ」
「いいんですか?」
「俺は普段作りにはいけないしね。可愛い彼女に作って貰う方が嬉しいでしょ」
「・・・ありがとうございます」
正直、海斗の食生活は少し心配してたから、愛香さんみたいな存在はありがたい。出来ればこのまま別れずに付き合って欲しいものだとしみじみ思う。水瀬さんといい、愛香さんといい、こういう貴重な存在には頑張って貰いたいものだ。
「海斗くんが、お義兄様のこと大好きなの分かった気がします」
「そう?」
「はい、お母さんみたいな安らぎがありますから」
・・・何故だろう。もうそろそろ諦めた方がいいと分かっていても、抵抗したくなるこの現実。これが自分の子でその子に『お母さん』とか呼ばれたらかなりショックなんだろなぁ。まあ、遥香という母親がいるしそんなことはないか。
「・・・お義母様」
「ごめん、それは止めて」
さりげなく呟いたそのセリフを止めてから、料理を完成させるのだった。




