569 雨の中
傘
「あれ?降ってきた?」
雲行きが怪しいような気はしていたが、ポツンと雫が頬に当たったことによりそれは正解になった。ポツンポツンっと降ってきた雨はやがて小雨になって、更に勢いを増してきた。俺は慌てて千鶴の元に向かうと折りたたみの傘を広げて千鶴を守る。
「降ってきたな・・・帰るとするか?」
「そうだね。雅人傘は?」
「持ってると思うか?」
「思わないよ」
さて、どうすると思っていると千鶴が背伸びしてコチラにも傘を向けようとしていたのを見て俺は思わず微笑んでしまう。
「ありがとう、千鶴」
「俺は別にナシでも構わないんだが・・・」
「だめ。かぜひくから」
「だそうだよ」
我が娘ながらなんとも優しくて可愛いものだ。そんな可愛い娘の好意に甘えることにして、千鶴を俺が抱き上げて、傘は真ん中で千鶴が持つ形で、両側の僅かなスペースに俺と雅人は入っていた。
「・・・これって意味あるの?」
片側の肩が徐々に濡れていくのでそんな疑問を持つ雅人。
「全身ずぶ濡れじゃないからね」
「まあ、そうだろうが・・・」
「そういえば、水瀬さんとは相合傘したの?」
「そういうお前は?」
「多分したはず」
回数的には送り迎えの千鶴の方が多いけど、何度かしたような気はする。
「俺はしたことないな。そもそも楽しいのか?」
「結構楽しいよ」
「あめあめふれふれ♪」
楽しげに俺が抱っこしている千鶴が歌っているが、こういうところが本当に可愛いのだ。
「いや、娘じゃなくて、嫁の方だよ」
「甘えてきて可愛い」
「水瀬が甘えてくるのかねぇ・・・」
「普段よりはかな?」
「なら、今度やってみるとするか」
雅人も随分と水瀬さんに惚れ込んだものだ。
「そういえば、水瀬さんの誕生日いつなの?」
「ん?そういえばいつだろうな」
その言葉に思わずピシャリと止まってしまう。
「・・・まさか聞いてないの?」
「いや・・・まあ・・・」
「自分の誕生日興味無いのは構わないけど、恋人の誕生日くらいは聞いときなよ・・・」
「帰ったら聞くって」
雅人は自分の誕生日にあまり愛着がないから、他人の誕生日もそこまで気にしないが、俺の誕生日は昔から知ってたので祝ってくれたのだろう。でも、今度からは俺の誕生日なんかよりも水瀬さんの誕生日を優先して貰わないと困るしね。
というか、こういうところは長年恋人と過ごしてない雅人の欠点なのかもしれない。誕生日というイベントの恋人としての過ごし方とかを知らないとかね。とりあえず水瀬さんの誕生日が今日とか過ぎてたりしないことを切に願おう。




