517 未来のために
強さ
「にしても・・・あの小さかった健斗くんが結婚ねぇ」
お茶を飲んで一息つく。そんな俺に構わずにその人は続けた。
「昔はずっとお母さんのところに通ってたわよねぇ。近所でも凄くいい子だって評判だったし。私も結婚して子供が出来てから健斗くんみたいな子が欲しかったのよー。でも、結局女の子しか出来なくて。その子たちも旦那が甘やかすから凄くワガママになってね。結婚できた時は本当に嬉しかったわぁ。あ、そうだ、これこれ。娘の結婚式の写真なんだけどね。少し大きなところでやったから料理とかも凄くてねえ。本当に旦那がお金持ちだと助かるわよねぇ」
見事な弾丸トーク。まあ、こういう人には慣れてるので慌てずに適度に相槌をうつ。伊達にご近所付き合いを頑張ってきたからこそ、この程度の弾丸トークで負けることはない。
俺は最高で6時間程度の長話に付き合ったことがあるからね。・・・うん、自慢にはならないか。いや、あれは正確には近所の喫茶店で6時間くらいずっと話を聞かされたので、立ち話とかなら3、4時間程度かもしれないが。
まあ、とはいえ、今の俺は結構2人に合わせてスケジュールを組んでるのでそこまで暇でもないのだが。
「そういえば、結婚相手ってどんな人なのかしら?」
「高校の先生です」
「あら、禁断の恋?」
「まあ、それでも構いません。連れ子もいて俺、もう子持ちなんですよ。その子が本当に可愛くて可愛くて・・・」
そうして、自分の話に持っていくことで時間を縮めにかかる。そんな俺の思惑には気づかずにその人は優しく目を細めて言った。
「じゃあ、きっと天国のお母さんも喜んでるわね」
「・・・だと思います」
嫁と娘の夢に出てくるくらいだからね。懐かしトークというのが、俺は昔は苦手だった。過去を思い出すのは、自分が保てなくなると思ったから。とくに母さんのことは俺の中でずっと忘れられなかったのだから。
本当に自分でも女々しいとは思うけど・・・そんな俺を救ってくれたのが遥香さんなのだ。遥香さんはよく、俺のお陰って言うけど、俺は遥香さんと千鶴ちゃんがいたから、未来を目指せた。
こうして、4人目の家族を授かって2人と本当に家族になれた。だから、今の俺は過去のことを聞かれても、過去の話をされても笑って返せる。そんな強さを2人に貰ったから。
「そう・・・健斗くん」
「はい」
「幸せになりなさいね」
「・・・ありがとうございます」
本当に人は変わるものだ。それでも、俺は今凄く幸せなのだと心から言える。




