510.2 バス内にて
「ちづるちゃん、たのしみだねー」
「うん!」
ガヤガヤと騒がしいバス内。後ろの席の香奈とそんな話をする千鶴。本来なら隣のレナと話すべきなのかもしれないが・・・そのレナは乗り物酔いを少しでも減らすためにスヤスヤと眠りの世界に旅立とうとしていたので邪魔をしたくないのだ。
「ちづるちゃんは、きのうちゃんとねれた?」
「うん、ぱぱとままといっしょだとすごくよくねむれるの」
「そっかー、わたしはさいきんひとりでねてるからなぁ」
その言葉に千鶴は少し驚いてしまう。千鶴からしたら1人で寝るなんて寂しくて仕方ないと思ってしまうからだろう。実の所健斗が来てから前より安心して眠れるようになったほどだ。だからこそ、驚く千鶴に香奈はため息混じりに言った。
「にいにが、いっしょにねるってしつこくて・・・だから、ひとりでねるようにしてるの」
「にいに・・・おにいちゃんのこと?」
「うん、そうよべって、いわれてるの」
お兄ちゃんという懐かしい響きに千鶴は少しだけ微笑んでしまう。去年まではそんな風に健斗を呼んでいたのを思い出す。
最初は本当に怖かった。前の父親のことが無意識に頭の隅にあったから。でも、健斗の優しさに触れてるうちに千鶴はこの人が本当の父親になって欲しいと心底思うようになったのだ。
優しくて、いつも自分と母親の遥香のことを考えてくれていて、側にいると凄く安心する・・・そんな人物。
抱きしめてくれる感触が好き、抱っこしてくれる温もりが好き、頭を撫でてくれる感触が好き、一緒にお風呂に入ってくれて、一緒に寝てくれる優しさが好き。健斗の作る料理が好き、いつも千鶴ことを笑顔にしてくれる言葉が好き、いつだって自分たちのことを想ってくれているその瞳が好き、なかなか言えないことを察してくれるところが好き、そしてーーー母親のことを笑顔にしてくれる健斗のことが好き。
いつも苦しそうだった遥香が健斗が来てから本当に心から笑えるように思えた。だから、母親のことも自分のことも救ってくれた健斗のことが千鶴は大好きなのだ。
もう少しで結婚式がある。自分も家族として手伝えることがあるのが本当に嬉しくて・・・また、こうやって家族だと確認出来ることが嬉しくて仕方なかった。
バックの中に入ってる健斗が作ってくれたお弁当箱を大切に守りながら、千鶴は香奈と遠足のことを楽しそうに話す。でも、帰ったら絶対に今日のことも健斗に伝えようと思うのだった。それにお弁当の感想も・・・




