501 校長先生
顔見知り
コンコンとノックをすると、懐かしい声で入室の許可が出た。ガラッと扉を開けると、そこには、初老の渋い爺さんがいた。その人こそ現在の校長先生だ。
「これはこれは、黒羽先生・・・いや、巽先生の旦那さん。ご足労いただき恐縮です」
「お久しぶりです、校長先生。あの、昔のように接して頂いて構いませんよ」
「そうかの。では・・・久しぶりじゃな、巽くん」
口調が戻ると少し落ち着く。うん、こういう人だったね確か。
「あの、俺が遥香さんの夫だってご存知だったんですか?」
「ほっほっほっ、夫婦揃って同じことを聞くんじゃな。まあの。書類を見ればすぐに分かる」
あ、遥香さんも聞いたんだねぇ。まあ、でもそうだよね。
「では、もうご存知だったりすんですか?俺たちのその・・・」
「子供のことかの?」
「話してましたか」
「お盛んじゃのぅ。まあ、黒羽先生が一時的でも抜けるのは痛いが・・・めでたいことだしのう」
この様子なら産休とかも大丈夫そうかな?物分りのいい上司で助かるとホッとしてると、校長先生は俺をじっと見てから微笑んで言った。
「ふむ、どうやら迷いは晴れたようじゃな」
「・・・その節はお世話になりました」
高校1年生の頃、不覚にもまだ遥香さんに全てを打ち明ける前で、少しだけ焦ってたことがあって、その時に1度校長先生には話を聞いて貰ったことがあったのだ。もちろん話したと言っても家のことも俺の気持ちも何一つとして話してはいない。
ただ、漠然とした焦りを話しただけだ。
それでも、少しだけ気持ちは軽くなったので一応お世話になったのだろう。
「よいよい。ところで、黒羽先生とは順調みたいじゃな」
「ええ、お陰様で」
「まあ、黒羽先生は強いが、君が支えないときっと無理をするからのう」
「・・・良く知ってます」
1人でなんでも頑張る癖はなかなか抜けないものだ。だから俺がいるんだ。
「巽くんは教師になる気はないのかな?」
「俺がですか?」
「教員は不足しがちだし、案外向いてそうだからのう」
「ないですね」
即答だった。だって、俺は今の主夫ってポジションが楽しくて仕方ないから。それに、俺まで仕事したら千鶴ちゃんもお腹の中の桜も面倒見ることが出来なくなるからね。そんな俺の即答に校長先生はくすりと笑って言った。
「まあ、それだけ今が楽しいなら頑張るといい」
「はい。ありがとうございます」
「君が心から居たいと思える場所こそ本当に居るべき場所じゃからな」
なんとなく深いような・・・年の功って奴かな?そんな感じで和やかに顔見せをするのだった。




