470.5 心からの安らぎ
遥香にとって二度目の妊娠というのは、前とは少し違うもののように思えた。それは二度目だからというだけではなく、きっと、健斗がいたからだろう。
吐き気や食欲不振、頭痛など色々な症状が重なって体調は最悪。食べたくても食べるのも辛いのだから大人しくしていたいが、その程度で仕事を休むのは嫌だった。
前の時はその期間が果てしなく長く感じたものだ。自分だけで耐えて千鶴を産んだときにはそれなりに嬉しかったものだ。そう、結局遥香としては妊娠自体自分だけの戦いだと思っていたのだ。
「はい、ゆっくり食べましょうね」
・・・そう、少し前までは。千鶴の世話をしながら自分のこともあれこれしてくれる健斗の存在が遥香はとても頼もしかったのだ。
食欲がなければ食べられそうなものを用意して食べさせてくれる。風呂が辛ければ全部やってくれる。そして眠れなければ膝や腕を貸してくれる健斗。介護でもこうまで手厚くはないだろうと思うほどに過保護だが、その優しさが辛い遥香には嬉しかった。
気分は最悪。でも、こんな風にずっと自分のことを気にかけてくれる健斗が遥香は愛おしくて仕方ないのだった。無論、千鶴のことも妥協せず、遥香がうるさく思わない程度に相手をしてるのも知ってるが・・・それでも、こんな風に尽くしてくれる健斗が堪らなく大好きだった。
(私はなかなか酷いものだな・・・)
病人のように甘えて頼ってしまっている。健斗なら拒まないだろうから。こんな風に甘えてるのは本当に健斗と出会ってからのことだし、本人が楽しそうなのだから問題はないのだが・・・それでも、やっぱり健斗には負担を掛けてると思う。まあ、とはいえ・・・
「遥香さん?どうしましたか?」
「いや・・・なんでもない。もう少し強く抱きしめてくれ」
「分かりました」
ベットで優しく抱きしめてくれていた健斗にそう注文する。健斗の体温が近くにあると不思議と安心するのだ。気持ち悪さも多少良くなる気がする。多分気の持ちようってやつなのだろうが・・・我ながら短絡すぎて苦笑してしまうのだった。
「なあ、健斗」
「なんですか?」
「・・・愛してるぞ」
「俺もですよ。遥香さんのこと愛してます」
そう、その愛の結晶がお腹の子供なのだろうと遥香はくすりと微笑む。妊娠というのは決して辛いことだけではない。こうして愛する人にいつも以上に構ってもらえるという都合のいいことも遥香は思うのだった。あと、遥香的には後ろから抱きしめられるのがお気に入りだったりする。




