458.5 早めの報告
「失礼します」
「おお、黒羽先生待っておったよ。いや、失礼。今は巽先生でしたな」
校長室に遥香が入ると校長である佐々木はなんとも穏やかに出迎えた。いかにも好々爺という感じのその人は遥香が座るのを確認すると聞いてきて。
「して、何か大切な話があると聞いてますが?」
「実は先日病院で検査して妊娠してることが発覚しました。なのでその件で・・・」
「ほほう、それはおめでとう。巽くんとの子ならきっと可愛いでしょうなぁ」
その言葉に遥香は少し驚く。健斗は別にそこまで有名ではないはずだ。確かに結婚報告をして苗字が巽になったことを伝えると一部の教師は何かに勘づいてたようだが・・・こうまで確信を持ってる人物がいるとは思わなかったのだ。
「お気づきだったんですか?」
「ん?なんのことかな?」
「私の旦那についてです」
「ああ、それは書類を見ればすぐにわかるとも。何しろ1番心配な生徒でしたからなぁ」
「心配?」
「でも、それは巽先生のお陰で払拭されたようで何より」
驚きつつも遥香はこの校長なら口外はしないだろうと結論づける。それに、面倒な倫理観もある程度許容出来るようなので一安心して言った。
「ですから、都度都度ご迷惑をかけるかもしれません。なるべく仕事には影響出ないようにしますが・・・産休と育休辺りはどうしても休みを貰いたいのでそのご相談をしに来ました」
「構いませんぞ。その辺は調整しますからな」
思ったより軽い返事に驚いてしまう。千鶴を産んだ時は安定期に報告して生まれる時ギリギリまで仕事をして、回復したらすぐに仕事に復帰していたのでこうしてきちんと相談するのは初めてなのだ。そんな遥香の驚きに校長の佐々木はくすりと笑って言った。
「私が若い頃なんかは働く女性がそうして休むのに物凄い偏見があったものでね。少なくともそういう人の方が仕事のことを思って長く続けてくれると知ってますからね。それに、生徒を導く学び舎でブラックな労働をさせるつもりはありませんよ」
そんな感じであっさりと話が纏まったのには驚いたが・・・それでも、話して良かったと遥香は思った。無論流産という最悪の事態も想定して周りにはまだ口外はしないことになったが・・・一先ずは第一段階としてはクリアだろう。
前はもう少ししたら悪阻が来たが・・・前回はそこまで酷くはならなかったので多分大丈夫だろう。いや、無論痩せ我慢もあったが。
「今回は健斗にバレそうだなぁ・・・」
気づかって止めそうな最愛の人を思い浮かべて微笑みながら遥香は職員室へと戻るのだった。




