358.5 最後のライン
「さてと・・・久しぶりだね海斗くん」
「・・・どうも」
健斗が千鶴を連れて出ていってから、遥香はとりあえず海斗にそう挨拶をすると意外なことに控えめに反応を返してくる海斗。前のようなツンケンした態度になるかと思っていた遥香は少しだけそれに驚きつつも言っておくことにした。
「前はあんまりちゃんと話せなかったからね。私に言いたいことがあるんじゃないかな?」
「・・・そりゃ、色々ありますよ。でも言いません」
「だろうね。だって君は完全には納得してなさそうだしね」
健斗を心から慕っているからこそ、自分との結婚に関して色々と思うだろうが、それが自分の我儘になると分かっているので、そんな風に言うのだろう。
「お祖父様は如何ですか?」
先程から黙って新聞を読む辰五郎にそう聞くと、辰五郎はそれに対して苦笑気味に答えた。
「ワシは前にお前さんに、堂々と可愛い孫を貰う宣言されたからの。心配はしてない」
「それはありがとうございます」
「それにの・・・曾孫というのも、存外可愛いものじゃのう」
どうやら夏休みの頃に何度か接したことですっかり千鶴にメロメロにされたような辰五郎。やはり曾孫というのも孫と同様祖父を虜にするようだと思ってから遥香はそれに苦笑してから海斗に言った。
「海斗くん。私はね、本気で君のお兄さんが大好きなんだ。優しくて、明るくて、家庭的で・・・1人で頑張りすぎる不器用なあいつが、私は大好きなんだよ」
「・・・わかってますよ。何年間側にいたと思ってるんですか。僕にとっては母親も同然ですよ」
本人が聞いたら渋い顔をしそうだと思いつつも、黙って続きを聞くことにする。
「兄さんはいつだって僕やクソ親父のために、ずっと頑張っててくれた。自分のことを色々削って、僕を育ててくれた。だから・・・僕は兄さんには幸せになって欲しい」
そこで一瞬何かを抑えるようにしてから、海斗はしっかりと遥香の目を見て言った。
「だから・・・兄さんを絶対に幸せにしてください。あなたが兄さんを苦しめるようなら、僕は何がなんでも、あなたと兄さんを引き剥がします」
「無論だ。私は健斗と幸せになる未来しか見てないからね」
もちろん、色々辛いこともこの先あるのが人生というものだろう。それでも、お互いの本音を知っていて強く結ばれていられるというのは、きっととても大きなことだと思うのだ。
永遠なんてものは存在しないだろうが・・・遥香は断言出来た。絶対にこの先健斗と離れることは絶対に有り得ないだろうと。そうして、遥香は巽家に本格的に自分達の結婚を認めさせるのだった。




