300 ボイル蟹
かにかに
「はい、千鶴ちゃん」
実を取り出して食べやすいように千鶴ちゃんに渡す。それを受け取ってから嬉しそうに食べる千鶴ちゃんにほっこりしながら、苦戦している先生の手助けをすると、先生は言った。
「毎度だが、本当にマメだよな」
「そうですか?」
「ちーちゃんのために魚の骨全部取ったりとかな」
「まあ、危ないですから」
大きくなるにつれてやり方は覚えればいい。今は俺が出来ることはやってあげたいのだ。
「というか、お前も食べろよ。私達ばかり気にしなくていいからな」
「そうはいきません。俺はこれが楽しみなんですから。あと、ちゃんと食べてますしね」
というか、俺は2人のために動いているだけでお腹いっぱいになるし、ないとは思うが、2人が残した分があった時のためにある程度余力を残す必要もあるのだ。まあ、先生も千鶴ちゃんも苦手なもの以外はきちんと全部食べるから心配してはいないが。
「おにいちゃん、かにさんおいしいね」
嬉しそうにそう言ってくる千鶴ちゃん。こんな顔が見れるのだから父さんには感謝しないとな。
「うん、そうだね。明日は鍋以外にもカニクリームコロッケとかカニグラタンとかも作ろうかな」
「かにさんのころっけ!」
キラキラした瞳を向けてくる千鶴ちゃん。うん、とりあえずコロッケは確定かな?
「というか、よくそんなにレパートリーあるよな」
「まあ、作れないものもありますけどね」
「そうなのか?」
「あくまで素人ですから。本格的に習えるなら色々習いたいものです」
「なら、調理の専門学校とか行っても良かったんだぞ?」
そう言われるが、それはそれに首を横に振って言った。
「いえ、俺は2人に作るために習いたいので、2人との時間がなくなるならいいんです」
「・・・ま、そう言うとは思ってたさ」
嬉しそうに微笑む先生。
「私としても、家にお前がいないのは寂しいし、困るからな」
「ええ、わかってます」
仕事で忙しい先生は家事や育児まで手は回らないし、そこは俺の専門分野だ。先生には好きに働いて貰って家のことは全部俺がやる。それがいいし、それでいいのだろう。
「おにいちゃん、あーん」
「む、ちーちゃん狡いぞ」
そう言いながら先生も千鶴ちゃんに続いて食べさせようとしてくる。可愛い反応に微笑ましく思いながら2人から食べさせて貰う蟹は凄く美味しく感じた。お礼に俺も食べさせてあげるが、2人の満足そうな顔で十分満たされたのは言うまでもないだろう。
蟹を食べる時に無口にはならなかったが、まあ、楽しく食べられるのがいいよね。




