99話「ゲームセット」
マジュの力強い一声に、エーダは驚きの声を上げた。
「えっ、まさかマジュちゃんが……⁉」
「脱がない! やあだ!」
エーダの解釈を読み切ったマジュは駄々っ子のような拒絶をした。エーダはエーダでその事しか頭にないのかと思ったが、ひとまず考えないようにした。
隙を突くその焦点は脱ぐ事ではない。あくまでも攻撃を当てる事なのだ。ユーシャの攻撃が当たりさえすればすぐに決着は付く。簡単な話だとマジュは言った。あの魔物は避ける際に毎回大きく飛び跳ねる。マジュは魔物の癖を見抜いていた。
「ユーシャー! トドメはあなたに任せたからねー!」
魔物に悟られないよう必要な文言すらも省いて言ったマジュは、そのままウサギ型の魔物に向かって突進した。トドメは──その一言と、マジュの行動でユーシャはすぐに察した。そして、大ジャンプで避け、空中で方向転換が出来ない無防備な魔物に一撃を入れるその瞬間に備えた。
マジュと魔物の距離が詰められていく。両者の目が合った。魔物は、興奮のままに涎を垂れ流していた。
「バッチコーーーーーイ!」
魔物はそう言ってノックを受ける野手のように身構えた。見れば見るほど興奮している魔物にドン引きたマジュは急ブレーキをかけて踵を返し、ユーシャの後ろに隠れた。マジュは泣きそうな顔でユーシャに訴えた。
「無理キモい無理マジで無理! 全部ユーシャがやって」
「えー⁉ 何だよそれー!」
「もし私があいつに何かされたらどうする⁉ 動物愛護団体が黙ってないわよ!」
「何の心配してんだ! そもそもアレ動物じゃなくて魔物だぞ⁉」
「魔物愛護団体が黙ってないわよ⁉」
「そんな人間を敵に回した団体聞いた事ねーよ落ち着け!」
あまりの気持ち悪さに気が動転しているマジュに任せるのは酷だとしても、隙を作ってから攻撃までを一人でこなさなければいけない事にどこか釈然としない様子のユーシャだったが、すぐさま気持ちを切り替える。マジュにはエーダとフアムを守るように指示を出して、振り向きざまに攻撃態勢に入った。
「おい、さっきも言ったが貴様が尻を差し出しても腰は振らんぞ」
「相も変わらず気色悪いな! お前の頭はそれだけか!」
「当たり前だ!」
「うるせえ! 断言すな‼」
魔物とのくだらないやりとりもそこそこに切り上げ、ユーシャは力強く踏み出し、再度攻撃を仕掛けた。
「ククク! 性懲りもなくまた同じ攻撃か。芸がないな!」
相手をバカにしたような事を言った魔物は、少年の攻撃に何度も繰り返した大ジャンプの回避を披露する。
先程から幾度となく繰り返された光景だが、一つ違う点があった。最大の攻撃力を発揮しようとしていたユーシャの蹴りに、力感がまるでなくなっていたのである。それもそのはず、今、ユーシャが繰り出した蹴りは相手にダメージを与えるためのものではない。一つ覚えのような魔物の回避──大ジャンプを誘うための振りであった。ユーシャのフェイントに魔物は見事に引っ掛かった。
空中でユーシャに視線を向けたプレイボールは遅まきながらユーシャの変化に気付く。今までのように少年の視線が明後日の方向に向いていない。自身の大きなスイングによって大きくよろめいていた攻撃後の姿勢が崩れていなかった。それどころか、既に次の攻撃態勢に移っていた。
しまった──! 魔物が真意に気付いた時には、照準が自分に定まっていた。何とか手足をばたつかせるも落下の方向は微塵も変わらない。
「お前の回避も芸がなかったな」
先程のバカにしたようなセリフがそっくりそのまま自分に返ってきた。魔物は慌てふためいて唯一自由が利く口を動かした。
「わわ、わかった! よし! 貴様も吾輩が楽しんだ後だったら好きにしていいぞ!」
……。彼女達がまるで自分のものであるかのような口振りの魔物に、ユーシャはいつになく力を込めて強烈な蹴りをお見舞いした。
「最後までそれかーーーーー‼」
着地寸前の魔物に向かって渾身のフルスイング。性欲全開豪速球のウサギ型の魔物・プレイボーイなプレイボールはユーシャの攻撃によって海の彼方まで飛んでいった。それはまさにホームラン級の一撃であった。




