100話「一日」
寂しがり屋の精霊がかつて棲み処としていたマーヨ・テ・マウーテ岩石群を無事に抜け出したユーシャ一行はマッカチョッカ大陸西側の港町ホクシーに立ち寄っていた。
この大陸で新たな仲間、ウィズアルド家の娘・マジュが仲間となったところから始まった一日は、煌々と照る太陽が沈み、町に明かりが灯る夜となっていた。今日という日も、あと数時間ほどで終わりを迎えようとしている。
「ふうっ。何だか疲れる一日だったわねえ」
エーダが大きく息を吐き、今日の旅を簡素にまとめた。
「エーダが目印をつけてなかったら疲れるどころじゃなかったかもね」
「ふふっ、それよりもマジュちゃんが奥地での文字を知らなかったらずっと精霊さんを探し続けてたかもしれないしねっ!」
エーダとフアムの会話にマジュが笑って入る。
「今日の朝に出会ったばっかだっていうのに、岩石群の行きと帰りだけで随分とあなた達を知れた気がするわ」
元々このパーティー自体が各々友好的という事もあって、マジュはすっかり打ち解けていた。それどころかそれぞれのパーソナリティーも窺い知れた意義のあるものだったとマジュは振り返る。
「精霊ってのには会えなかったけど、結果が出なくともとりあえず良しとしときましょうか!」
「殺伐とした親睦会だったね」
「あははっ。言い得て妙かもっ!」
「まあ危険と遭遇しなかっただけでも御の字よね! うん! 私達は何とも出会わなかった!」
最後のマジュの一言にエーダとフアムは力強く同意した。
危険との遭遇──貞操の危機を脅かした歩く情欲。ウサギ型の魔物・プレイボールと対峙した事を彼女達はなかった事にした。身も心もざわつかせる存在を綺麗に忘却していたのだ。
パーティーのリーダー・ユーシャが三人に話し掛ける。
「あっはっは! 何だか歩き回ったり考えたり大変だったよな!」
──今日の所はゆっくり休もうぜ──!
……。ユーシャはユーシャで直近に対峙した魔物の存在などナチュラルに記憶から消し去っていた。海中には憐れな魔物の涙も含まれているのだろうか。
精霊の事、これからの事はひとまず置いといて、一行は宿に入り明日に備えて眠る事にした。
「床に就く前に風呂でも入りましょ!」
エーダはそう言ってフアムとマジュに声を掛けた。フアムは手をいやらしくわしゃわしゃしてエーダの後を付いていく。
「うーん……私はちょっと疲れすぎたからもう寝る事にするわ。今日までもゴリエット達を探してずっと動き回ってたから」
「あっ、そうよね。ごめんなさい気が回らなくて」
「あはは! そんな事で謝んないでよ!」
「そういえば今日の今日まではぐれたメイドさん達とすれ違い続けてたんだっけ」
「一段落ついてそのまま歩き回ったからねー。体力には自信があるけどさすがに疲れたわ」
「私はマッサージに自信があるよげへへへへ」
「内なるおっさんを出すなフアム」
ユーシャはフアムにツッコみを入れた後、一人で食堂に出かけた。エーダとフアムはあらためて浴場に向かう。
「じゃあ行きましょフアムちゃん。マジュちゃんおやすみなさい」
うん。おやすみ──マジュが言葉を返した頃には、既にエーダは身に付けていた衣服を全て脱ぎ払っていた。
「せめて脱衣所に行ってから脱ぎなさいよ!」
食事に行ったユーシャも、すっぽんぽんのエーダも、エーダの弾力のあるほどよく大きなお尻を眺めるフアムも、水に浸かるのが嫌いなマジュが疲れを理由にして難なく風呂を逃れた事に気付く事はないだろう。
こうして今日という一日が過ぎていき、そして夜が明け、朝が訪れた。
寝ぼけまなこを擦り、寝癖で髪がぼさぼさになったマジュ。マジュを抱き枕にしてびったり離れないフアム。そんな二人を微笑ましく見ていたエーダはやはり衣服を一つも身に付けていなかった。
その後、どれだけ声を掛けてもどれだけ体をゆすってもどれだけマジュの拳が炸裂しても起きないユーシャが何事もなかったかのように目を覚ます。
本日も昨日と変わりない晴天である。心地よい陽の光がこの大陸中に、そして宿から出てきたユーシャ一行を差す。
「いい天気だなあ!」
いささか能天気な少年を筆頭にした彼らの一日が再び始まろうとしていた。




