95話「帰り道③」
結果から先を述べると、ユーシャ一行はマーヨ・テ・マウーテ岩石群入り口──マッカチョッカ大陸西側の港町・ホクシーよりさらに西の海岸線が直視できる場所まで辿り着く事が出来た。
彼らを導いたエーダの機転。帰路の目印となった彼女の私物を、十六を数えたナイフの先から回収した順に述べていこう。
エーダのカバンは一見それ程多くの荷物が入っているようには見えないが、それでも様々なアイテムを持っていた。
たいまつ、及びそれに火をつける道具。方位磁石。刃物を研磨する砥石。タオル。数メートルほどのロープとロープを留めるであろう楔。加えて替えの衣服も目印に使っていたようだ。それらは風に吹かれて飛ばされないよう手ごろな石の下に敷かれていた。この時点で石を使えばいいという発想に行き着かなかったのかと考えるのは野暮という事にしておこう。
そして帰路の最終盤。ほんの少し風が出てきた帰り道。一行が目にしたのは、エーダがよく着ているインナーの服。次に、これまたやはり彼女が普段履いている左右の靴下とズボン。……ブラジャー。そして──最後に拾ったのは面積の少ないパンツだった。
……。
…………。
最後に拾ったのはパンツ。そして、回収した順番が意味するものは──。
「お前もしかして真っ先にパンツ脱いだのか⁉」
「だ、だってっ……! 汗で肌に引っ付いて何だか気持ち悪かったからつい──」
「エーダ、あなたおしとやかな変態だったの⁉」
「そんな事ないわっ! 私だって分別弁えて脱ぐくらいの──」
「分別弁えてる奴はまず脱がねえよ‼」
こんな異常な日常はないなあ──部外者然として三人のやりとりを眺めていたフアムには得心行くものがあった。
すんとした少女には疑問に思った事があった。類まれなる露出狂が神秘的な岩石群最奥地で脱ごうとした時の事である。前開きのローブのボタンを外すと、すぐに素肌があらわになっていたからだ。この時既にインナーの服を脱いでいたからなのだと符合した。
そしてもう一つ。行きの道中で──。
「エーダが顔を赤くしていたのはこういう事だったんだね」
「まさか……全部脱がずともローブ一枚だけっていう状況がこんなにもドキドキするだなんて思わなかったわ。自分の中の何かが──」
「やめろ目を覚ませ、いや目覚めるな! 何だこのツッコミ前にも言った事ある気がするぞ!」
自分が放ったツッコミだけはやたら記憶力がいいユーシャであった。
もしあの時、フアムが止めていなかったら上着を脱ぐたった一手間でスッポンポンになるという精霊に対して──結果的にいなかったが──不敬極まりない事態であった。何の気なしに取った行動がその実ファインプレーだったことにフアムはほっと一息を吐いた。
──ほう、そのローブの下は何も身に付けていないのか──。
「そいつはいい事を聞いた」
「どこがじゃーい‼……って、え──?」
つい脊髄反射のようにツッコんだ。だが、すぐさま強烈な違和感に襲われた。その低い声の主は、ユーシャ一行の誰のものでもなかったからである。このような場所には自身を含めて四人しかいないと思い込んでいた分、ユーシャは余計に驚いた。
心がざわついたまま、声がした方向へ振り向くと、マーヨ・テ・マウーテ岩石群の高くそびえる湾曲した高地の岩壁の間──乾いた道の真ん中に魔物が立っていた。




