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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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82話「ウィズアルド家」

 自らが仕える領主の一人娘・マジュの言動にスピードアは動揺を隠せない。マジュはうろたえるメイドに優しく声を掛けた。


「ごめんスピードア。大工さんはあなた達だけで探してくれない? 私、魔王をぶん殴ってくるわ」


 ……。向こう見ずと言うべきか。恐れを知らない令嬢は、握った拳同様に、その決意も揺るがないほど固くしていた。しかし、スピードアは立場上、そしてマジュの両親やメイド長・ゴリエットがいない今、自分の判断だけで『はいわかりました』と軽率に送り出すわけにはいかない。マジュがユーシャの旅に同行する事をおいそれと認められないメイドは、彼女の決意に反対した。


「い、いけませんマジュ様危険です!」

「危険な旅ならなおさら人数が多い方がいいでしょ? 協力してくれたお返しに私達も協力してあげればいいじゃない」

「そういう話では……! そ、それに先程の戦いで彼の強さを見たでしょう⁉ ユーシャ達なら心配ありませんよ!」


 大砲の砲弾を平然とぶん投げるマッチョなメイド・ゴリエットも認めるユーシャの実力を引き合いに出し、何とかマジュを翻意させようとする。


「魔王何某はユーシャに任せて──」

「『魔王』でピリオド打てよ! 文字数が余計長くなったわ!」

「ユーシャならきっと討伐を果たしてくれます! 彼に間違いなどありません!」


 マジュを諦めさせるために過剰にユーシャを持ち上げている部分もあるのだろうが、しかし言われている当の本人は少し気恥ずかしい思いだった。スピードアの説得はさらに勢いを増す。


「ついでに世の中の面倒事もユーシャに任せてしまえばいいのです! 彼なら腕利きの大工様だって探し出して……いえ、彼なら焼けた屋敷の解体だって廃材の撤去だって地ならしだって地盤調査だって資材作りだって、何だったら屋敷だって建てられる!」

「できねーよ! 大工仕事もそこまで詰め込んだらもはや雑用じゃねえか‼」


 ……。勢いを増した結果、ユーシャの扱いが雑になってしまった。


「マジュ様。その場の感情で動く前に、まずは旦那様と話してからでも──」

「パパとママは旅行中でしょ? 話すと言ったって今どこにいるの?」

「う……。で、では、先輩の判断を仰いでからでも遅くは──」

「あら、じゃあ勇者様の魔王討伐の旅をこれ以上足止めするっていうの? あなた、彼に処されるわよ?」

「そんな事するか! アンタは一刻も早く勇者のイメージを刷新しろ!」


 マジュの頭の中の悪代官にも勝る悪辣な勇者像はさて置き、マジュも黙ってはいない。


「スピードア聞いて。魔王が存在する限り魔物の勢いは旺盛なままなんじゃない? だとすれば、また屋敷に襲撃してくるかもしれないわ」

「そ、それは確かに、そうかもしれませんが……」

「新しくお屋敷を建てたとしても、魔王が扇動した魔物が再び花火玉目掛けて突っ込んできてしまえば同じ事の繰り返し。でしょ?」

「それは……否定できませんね……」

「あんたら毎日でも花火打ち上げるつもりなの⁉」


 令嬢は頑なだった。だが、スピードアもおいそれとは引けない。

 

「ですがマジュ様……。もしあなたに何かあったら旦那様や奥様も、先輩達はもちろん私だって悲しみます」


 自分を雇ってくれている領主の大切な一人娘。生活を共にした、沢山の時間を共有してきた。彼女にとって、マジュの存在は今や主従関係にはとどまらないほど大きくなっているのだ。マジュの意思を尊重する事ももちろん大事だが、危険が付きまとう道に放り出す選択など出来るはずがない。


「それにあなたはまだ十六歳になったばかりでしょう? だから──」

「もう十六歳よ! 成人を迎えたの。だから、いつまでも子供扱いはやめてよね」

「……! マジュ様……」

「私は甘やかされてばかりの人生を送ってきた覚えはないわ。私もパパの、いや、由緒あるウィズアルド家の家訓をこの胸に刻んでいるのよ」


 スピードアの瞳に映った彼女は、とても凛々しく、そして力強い眼差しをこちらに向けていた。もう何を言っても無駄か──スピードアは眉間にシワを寄せ、目を瞑って俯く。顔を軽く横に振り、参りましたと言わんばかりの表情で息を吐いた。そして綺麗な所作で、マジュに向かって腰から体を折って頭を下げる。


「申し訳ございませんマジュ様。私は在りし日のまま、あなたを子供扱いしていたのですね」

「ふふ! まあ、あなた達とは私が小さい時からずっと一緒に居るもんね」


 マジュはにこりと笑う。そして思い出していた。ウィズアルド家領主が──父が常日頃言っていた言葉を、遥か昔に魔法大国として君臨していた名家が大切にしてきた言葉を。


「あなたもパパが言っていた言葉を忘れた訳じゃないでしょ?」

「えぇ、勿論。この鍛えた体が、その証明です……!」

「私だって、この拳で証明してみせるわ!」


 二人は口を揃えてこう言った。ウィズアルド家家訓──。


『魔法なんかに頼るな。筋肉は裏切らない』

「頭の中まで筋肉か! レガシーも形無しだな‼」


 レガシー──何故、魔法という素晴らしい遺産が子々孫々に受け継がれていないのか。その答えは家訓にしっかりと表れていた。

 かつて、マッカチョッカ大陸全土を支配した魔法大国の血族は、長い時を経て、頭の中から骨の髄まで筋肉に支配されていたのだった──。

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