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勇者の扱いが雑なんだが。  作者: 二ツ木十八
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81話「港町にて」

 あっちこっち行った方向音痴の令嬢の話はそこそこに、一行はマッカチョッカ大陸西側の港町ホクシーへ歩みを進めていた。

 魔物を倒した直後は堰を切って喋っていたマジュだが、ホクシーへの道中は別人のように大人しかった。スピードアに話を振られても相槌は打つが、返す言葉は二言三言と少ない。視線を忙しなく動かしている彼女の表情は、疲れてるというよりも、どこか思案に耽っているように見えた。    

 枝道に脇目も振らず進んでいくと、曲がりくねった岩壁の隙間から青々とした海が見えてきた。程なくして海岸線の先の港町ホクシーも視界に入ってくる。

 焼失してしまった屋敷の新築を依頼すべく腕利きの大工を探す旅をしていたウィズアルドの令嬢マジュとメイド・スピードアは、ともに旅に出たもう二人のメイド・ゴリエット、チョードリーと合流して旅を再開するため、二人が滞在しているニスニアール大陸へと船で向かう。

 ニスニアール大陸行きの便が出る港町へ近づいていく。彼女達との別れの時がすぐそこまで来ていた。


「スピードア、ご飯とか食べるなら一緒にどう?」

「いえ、誘ってくれるのは大変ありがたいのだけれど、先輩やチョードリーに一刻も早くマジュ様のご無事を知らせたいの。確か、午前中の便にはまだ間に合うはず。ごめんなさい。合流を優先させていただくわ」

「……そっか、ゴリエット達はマジュが無事なの知らないもんな」


 少年からの食事の誘いを、メイドは後ろ髪を引かれる思いで断る。すれ違いを避けるために北西の大陸に残った二人のメイドは、未だマジュの行方を知らないままなのだ。少しでも早く朗報を届けて安心させてあげたいと思うのも当然と言えるだろう。ユーシャも残念そうな顔をしたが、仕方がないと受け入れた。しかしそうとなると、別れの挨拶もそこそこに乗船の手続きをしなければならない。フアムはエーダに声を掛けた。


「エーダ、マジュのヘアピン。忘れないうちに」

「あっ、そうだった! マジュちゃん──」


 これ──エーダは手に持っていた花の形をしたヘアピンをマジュに差し出した。


「あれっ? 私のヘアピン⁉ なんでエーダが持ってるの?」


 どうやら落とした事にも気付いていないようであった。食事を取るために町へは立ち寄ったマジュだったが、きっと彼女にもメイド達と早く合流したい気持ちがあって焦っていたのだろう。マジュは差し出されたヘアピンを受け取った。


「エーダ、ありがとう!」

「マジュ様。私は乗船の手続きをしてまいりますので、マジュ様はユーシャ達と一緒に休んでいてください」


 乗船所に向かうゴリエットに、マジュは一拍置いてメイドに話し掛けた。


「あ、ちょっと待ってスピードア。あなたも私の話を聞いてくれる?」

「……え、と、船が出るまでの時間も差し迫っているのですが……緊急性のある話でしょうか?」


 スピードアを呼び止めたマジュは、ユーシャの方へ体ごと向きを変えた。そして──。


「ねえユーシャ。あなたの旅に私も連れていってくれない?」


 ……。


「……えぇー⁉」


 一同は驚きの声を上げる。

 わお──フアムはワンテンポ遅れて静かに驚いた。


「マ、マジュ様! い、い、一体何故──」

「そうだよ! 俺達が何の旅してるかわかってるのか⁉」

「知ってるわよさっき聞いたもん。まおなんちゃらってのを討伐するんでしょ?」

「あとは『う』だけだろうが。文字数が余計長くなったわ」


 マジュはなんと魔王討伐というユーシャ達の旅の目的を知っていてなお、彼らについていくと言い出したのだ。魔物に襲撃された場所からここホクシーまでの道中で、彼女がやけに大人しかったのはこの事を考えているからであった。


「そいつはさっきのうるさい鳥の親玉なのよね」

「あー、まあ、そうだとは……え、そうなのかな」

「なんでそこわかってないのよ」

「あっ、マジュちゃん。あの鳥に似た魔物と戦った事あるんだけど、その魔物が確か『魔王様』って言っていたの聞いた事あるわ」

「なるほどね。じゃああの鳥も魔王とやらと関りがあるとみていいのかも」


 討伐を任されているくせにそこらの事情をろくに把握していない勇者の代わりに、先の魔物の亜種・シンシーが魔王と魔物の関連性を示唆した一部始終をエーダはマジュに話した。彼女は得心して頷く。マジュの推測通り、うるさい鳥──ノットシンシーは数日前、魔王復活の景気付けと銘打ってウィズアルドの屋敷を襲来したのだ。つまり──。


「魔王がうちのお屋敷を燃やしたと言っても過言じゃないわ」

「過言どころかもはや妄言だよ。あくまでも偶然の事故だろうが」

「屋敷を燃やした事、そして自分の手下が逆切れしてきた事にも責任取らせなきゃね……!」

「逆恨みも甚だしいわ! 逆切れしてんのむしろそっちじゃねえか!」


 マジュは力強い目つきでユーシャになおも話し掛ける。


「ねえユーシャ。あなたが勇者らしく魔王の首をはねて灰塵となす前に──」

「お前の勇者のイメージどうなってんだよ! 討ち果たし方が邪悪そのものじゃねえか‼」


 私にも一発ぶん殴らせてよ──ウィズアルドの令嬢は、おしとやかな容姿とは裏腹に、固く拳を握って物騒な文言を言い放った──。

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