83話「加入」
ウィズアルドの令嬢・マジュも魔王討伐の旅へ。マジュとスピードアの中では話はついたようだが、ユーシャ達はただただ面食らっていただけであった。ユーシャはマジュに念を押して確認する。
「マジュ、本当についてくんの?」
「えー! ダメなの? じゃあピッタリ後ろをついていくだけでいいから見て見ぬ振りしてよ」
「背後霊かおのれは」
「あ、そうか。私が仲間になる事にメリットがあればいいのね?」
「いや、そういう訳じゃないんだけど」
「私が呼べばメイドのみんながいつでも駆けつけるわよ」
「そんなわけねえだろ!」
中々に無茶を言う令嬢である。人に尽くされて日々を過ごしたらこのような考えになるのだろうか。スピードアが困惑した表情で話に割って入る。
「何をおっしゃっているのですかマジュ様!」
「えー? ダメなの⁉」
「そりゃそうだ。無茶言うなって」
「他の大陸だったりすれば海を泳がねばならず駆けつけるのに時間が掛かってしまいます!」
「駆けつける気概はあんのかよ。つーか何故泳ぐのがファーストチョイスだ!」
船だと出航する時間が決められている──筋骨隆々のスピードアは事も無げに答えた。メイドにとっては令嬢の声に迅速に馳せ参じるのは大前提で移動手段はもはや問題ではなかった。エーダとフアムがユーシャに声を掛ける。
「ユーシャ、私はマジュが仲間になるの別にいいよ」
「私もっ。何だか旅が賑やかになりそうよね!」
「二人とも……。そっか、じゃあ──」
それでいっか──。……。まるで食事処で相席を許諾するかのような軽さだが、ユーシャ達はマジュの旅の同行を歓迎する事に決めた。
マジュ様を、どうか宜しくお願い致します──スピードアはユーシャ達にやはり綺麗な所作で深く頭を下げた。
近くから、汽笛の音が大きく響き渡る。それは、船が港を離れ他の大陸に向かう合図であった。
「あ、船が出ちゃったね」
一刻も早く令嬢の無事をゴリエット達に知らせたい──スピードアの言葉を覚えていたフアムはそう口にした。スピードアはくすりと笑う。
「ふふ。そうね。仕方がないわ。次の便はしばらく先だから泳いでいくとします」
「大陸を渡るのに泳ぐ選択肢があるのがおぞましいわ」
スピードアは名残惜しそうにマジュを見つめる。マジュを新たに仲間に加えたユーシャ一行が魔王討伐を果たすまで、しばしの別れである。長らく生活を共にしてきた彼女にとっては寂しさも一入だろう。だが、令嬢が自分の意志で決めた事を尊重したい──スピードアは気持ちを押し殺してマジュに話しかけた。
「それでは、マジュお嬢様。どうかお元気で……」
「そんな今生の別れみたいに言わないでよ。パパやママ、ゴリエット達にもよろしくね」
「えぇ。私は、マジュ様が決めたのならばもう口を挟みません」
スピードアは、ほんの少しだけ切なさが見え隠れした笑みを浮かべる。だが、すぐに表情を引き締めた。しっかりとマジュの目を見て凛然と思いを口にする。
「でも、せめて遠くから祈らせてください」
「ふふ、うん!」
マジュは微笑み、スピードアもつられて口角を上げた。そして──。
「マジュ様の健やかな命をいのっちゃいます……!」
……。
…………。
場の空気が凍った。先ほどまでの微笑ましい空気が山の天気のように一変した。スピードアを除く皆が口を真一文字に結び、真顔になる。
スピードア──マジュが顔を赤らめるメイドに話しかける。
「今の……『いのち』と『いのっち』ゃうが掛かったダジャレって事でいいのね?」
……。令嬢は残酷にも人のボケを解説し、問い詰めた。スピードアの顔がさらに赤くなる。
「つまんない。二点くらいね」
「あぁっ! そんなバッサリ!」
「あなたならもっと上手いダジャレを思いつくはずよ」
マジュは謎のエールを送り、スピードアは恍惚の表情を浮かべた。いつの間にか、長らく生活を共にした二人の別れという寂寥感と、二人のやり取りについていけていないユーシャ一行の表情が消え失せていた。あ、そうだ──マジュが何かを思いつき、声を上げる。
「ねえスピードア。大工さんを探す旅はそこそこで切り上げてもいいかもしれない」
「え? ど、どういう事でしょうか……?」
「ユーシャ、私頑張って功績挙げるからさ! ご褒美として余ってるお家とかあったら住まわせてくれない?」
令嬢は何とも突飛で仰天の提案をしたのだった。スピードアが慌ててマジュを諭す。
「マ、マジュ様! そんな二つ返事で決まるような話ではない事を口にしてもユーシャにご迷惑が掛かります!」
「うーん……まあ、本当に住む家に困ってるっていうのであれば父上なら『いいよ』って言うと思うけど」
「ユーシャ! 本気で受け取らなくてもいいわ! 第一国王ともあろうお方がこのような戯言に即答で了承するわけないでしょう⁉ そのような浅いお考えで答えを出すはずがないわ!」
だがしかし、ユーシャの父である空前絶後に暢気なオカノウエー王国国王ノンキーナならありえない話ではなかった。
「あれ? ちょっと待って、もしかして親とか他にも全員って事?」
「え? うん、そうよ」
「えー⁉ そんな大勢が住めるだけの家あんのかなあ?」
「もし何だったらお城でもいいわよ」
「『何だったら』が強欲過ぎんだろ!」
いかにも傲岸不遜であるが、マジュは勝気な表情で相互利益になる話なのだと言った。ウィズアルド家に仕えるメイド達はどこに出しても恥ずかしくない、世界に誇れるメイドなのだと主張する。そして何より──。
「一騎当千の屈強なメイドが手に入るのよ」
「……もはや壮大な軍事拡大計画だな」
メリットしかねえ──ユーシャは黙る事しかできなかった。




