116話「東の祠③」
呆気に取られる。今のユーシャにそっくり当てはまる言葉だ。そしてユーシャの眼前にいる二人の女性はそっくりという言葉では表せない。瓜二つでも物足りない。同じである。違う箇所を探すのが困難なほどに同じなのだ。
ユーシャがあんぐりと開けた口を閉じるのを忘れていると、後からやってきた彼女が小走りでこちらに駆けてくる。
「えぇ……嘘だろ……?」
隣り合って並んだ姿形が鏡に映ったように同じ女性を何度も何度も往復させて見比べる。目を凝らしても、目をつぶって再度開いて見ても、やはり目に映るものは変わらず、同一人物だとしか思えない二人がそこにいた。
「ユーシャっ! 何を迷っているの⁉ 私がエーダよっ!」
「何を言っているの⁉ 惑わされちゃダメっ! 私がエーダよっ!」
私こそが長く旅を共にしてきた仲間なのだと胸の前で両手をぎゅっと握って真剣な眼差しで訴える。双方ともに口調どころか仕草まで同じだった。
本物のエーダは隣の自分そっくりに化けた者が魔物なのだと確信していた。おそらく化けて欺き、ユーシャを亡き者にしようとでも企んでいるのだろう。
本物の自分を差し置いてユーシャの元へ近づこうとしたのを、そうはさせまいと、偽物とユーシャを二人きりにさせてはいけないと必死で追いかけてきたのだった。
エーダはユーシャが絶対に騙されると確信に近いものがあった。何故なら長く一緒にいたこの少年は純粋でいて、さらに言えばとてつもなく素直だからである。そうでなくとも、化けた魔物の完成度は天邪鬼でもなければ疑う方が難しいほどであった。化けた魔物を見つけた時の本人でさえ、自分の目を疑ったくらいだ。
エーダの懸念はもう一つある。隣にいる魔物の存在が、この完璧な擬態がエーダをも疑心暗鬼にさせた。眼前にいるこの少年も魔物が化けていたりはしないか──?
呆けた顔のまま、あまりに珍妙な光景に言葉を失っていたユーシャがようやく口を開いた。
「エーダ、お前分裂できたのか⁉」
『何でそうなるのよっ!』
……。二人のエーダにツッコまれた。二人の声はまるで双子が織りなすシンクロニシティのように同じ言葉で同じ語調で綺麗に言葉が重なっていた。
「これは魔物の仕業よユーシャっ! 騙されちゃダメっ!」
「っ⁉ やっぱりそうだよな……!」
パーティーを離散させた無数の飛来する物体が魔物によるものだと確信に近いものがあったが、ドッペルゲンガーのように同じ人間が同時に存在する異様な光景がその確信を裏付けるものになった。
今、魔物の仕業と口にした方がきっと本物のエーダなのだろう。しかし──。
「え……今どっちがしゃべったの?」
微妙に距離が離れている二人のエーダを同時に見ることができず、交互に見やっても二人とも口を動かしていて判別がつかない。唯一の頼りである音も、祠の中の狭い道に反響してどちらから発せられているのかが特定できなかった。
「しっかりしてユーシャっ! 私が本物よっ!」
「何言ってるの私が本物よっ! ユーシャっ、私をちゃんと見てっ!」
「み、見たって区別つかねえよ! おい! 魔物の方はちょっと黙ってろ!」
『黙るわけないでしょっ!』
……。騙そう欺こうとしている魔物が素直に応じるわけがないのは自明の理であった。そんなユーシャのふざけた注文を再び二人のエーダにツッコまれた。
普段ツッコみなどしないエーダさえ珍しくツッコむ──それほどまでに場は混迷を極めていた。




