113話「確信」
「うわあ。近くで見ると大分でかいな」
それよりも──先程までの森林浴に気持ちよくしていた顔を一転険しくさせて、間近で見る大岩に呆気に取られたユーシャに続いてエーダは皆に語り掛けた。
「この岩……何だかおかしい気がする。ここら辺の地面からせり出して風化したような色とも違う。どちらかと言えば──」
西の岩石群の地質に似ている──エーダの言葉で、一行の脳裏にはある存在が浮かんだ。自然を司る高尚な存在──そういうからには、世界を彩る大自然の何かしらに属したようなものなのかもしれないと想像を働かせる。
本来であれば、それは西方のマーヨ・テ・マウーテ岩石群にいた。場所の特徴としては花が実らないどころか、草木も生えない殺伐とした渇き切った大地である。もし、分類される属性があるのなら──。
「自然を司るって言ってたけど、土……かな」
フアムが先陣を切って口にした。
「精霊が何かやったんだとしたら……後天的に作った岩ってことなら不自然さにも説明は付くわね」
マジュの言葉に、皆が疑問に思うようなことはなかった。エーダはうんうんと軽く顔を縦に振りながらユーシャに声を掛ける。ユーシャはエーダの顔を見やり、深く頷いた。
「ユーシャっ!」
「あぁ! この岩を調べよう!」
「みんな、こっち──」
遠くからフアムの声がした。その声に反応してユーシャ達は周囲をきょろきょろ見渡す。気づけば、この場からフアムがいなくなっていた。先陣を切って口にしたままに、すぐに行動に移していたのだった。
声の方向へ──大岩をぐるっと回って向かい側へ歩いていくと、そこにはなんと大岩の中へと続くであろう入り口があった。そばで佇んでいたフアムへ目を向けると、少女は首を上方に傾けて不自然にそびえる大岩のある一部分を凝視していた。移動してきた皆に気付くと、マジュを名指しして口を開いた。
「あの岩石群の奥で見つけた文字とおんなじのがあるよ」
マジュはすぐさまフアムのもとに駆け寄る。そして少女が指差した箇所に焦点を当てた。
忙しなく目線を動かし、頭の中でつらつらと文字を並べていく。
「なっ、何て書いてあるの……っ?」
エーダが待ちきれないように急かす。ユーシャが家族を後方で見守る父のようにゆっくりとやってくるのとほぼ同じタイミングで、マジュは髪をふわりとたなびかせてユーシャ達の方へ振り向いた。
マッカチョッカ大陸西部の天険の地を思わせるマーヨ・テ・マウーテ岩石群最奥部と同様の、この周辺の地でかつて使用されていた言語で綴られていた文を読み上げた。
──ここに、私はいません──。
「……」
「……」
「……」
……。
絶っっっ対に何かいる──! 精霊かどうかはまだわからない。だが、いじけたような素振りでうそぶく何かがこの中にいるのだと、直感がそう告げていた。
「ヌクインで会った二人組とかが書いたってことはないよね?」
足元に僅かに窪む自分達のものとは違う足跡を眺めながらフアムは可能性の一つを口にした。頭の中ではそれはないだろうという確信を持ちながら、とりあえずの確認という意味を込めて皆に問い掛けた。精霊を利用して金稼ぎを企む若者二人や、兵士を引き連れたお姫様ではない──マジュは首を横に振って否定した。彼女の中で答えは瞭然としている。
「それはないわよ。だって、この言語は今は使われていないものだもん」
「もし別の場所に行かせたいのなら現代語を使うわよね」
「早速中に入ってみようぜ」
そう言ってユーシャはエーダにたいまつの準備を促した。
その必要はなさそう──入り口から数歩ほど中へ入っていたフアムがぼんやりと声を反響させてエーダに伝えた。三人もフアムに続くと、すぐに得心行った。なんと、両側の壁に等間隔で並ぶ僅かに空いた穴から火が灯っていたのだ。
「マジュ、また文字が書いてある」
昔の言語に慣れたのか、岩壁に彫られた文字をマジュが滑らかに淀みなく読み上げた。
──足元に気をつけて──。
……。
絶っっっ対にあいつだ──! この際不敬かどうかはどうでもいい。一行は思い出す。岩石群の最奥部に彫られていた文を。
──人が全然来てくれなくて寂しいので場所変えます──。
長らくいたであろう場所から人恋しさ故に場所を移した精霊がここにいる──入り口にて頭を過った予感は、誘う道中の配慮をもって確信に変わったのだった。




