3.婚約ではなく結婚ですか!?
◇◆◇
私が初めて蘇生魔法を使ったのは、七歳の頃だ。
その頃、国王陛下が、我が家の領地を視察で訪れていた。
我が家も陛下の護衛も万全を期していたが、それでも我々の隙をついて刺客は現れた。
当時、私と同い年の王太子殿下も同行していたため、陛下は自分の息子を守るためにその命を散らした。
「ちちうえ〜」
金髪翠眼の美少年が悲しんでいる様は見ていられなかったので、私は父の許可を得て、蘇生魔法を使うことにした。
父も、相手が国王陛下なら止めなかった。
そして、魔法を行使すると……。
「ふおおおーーーー!? 私、死んだぁーーーー!?」
そんな声を上げて、陛下は飛び起きた。
「へ、陛下……」
「ちちうえ……!」
泣きながら陛下に飛びつく殿下を見て安心した私は、そこで意識を手放した。
その後、魔力不足により三日ほど眠り、目を覚ますと、陛下たちは既に王都へ向かった後だった。
後日、褒賞が与えられ、我が家の領地は潤った。私も一生使えるデザインのアクセサリーを買ってもらったのを覚えている。
そのアクセサリーは、チェーンの長さなどを直して今でも使っている私の宝物だ。
後に聞いた話では、陛下を襲ったのは王位簒奪を狙った王弟が放った暗殺者だったらしい。
その暗殺者は禁忌の魔法で、陛下の側近の姿に変身して凶行に及んだという。
その暗殺者はもちろんのこと、王弟とその一派も、一族郎党に至るまで死罪となったそうだ。
蘇生できたとはいえ、一国の王を死に至らしめているので、無理もない処遇だった。
禁忌の魔法で姿を変えた暗殺者は元の姿には戻れず、側近の姿のまま毒杯を賜った。
偽物とはいえ、腹心の姿の者を処刑するのは陛下もかなりキツかったようだ。その暗殺者は死ぬと元の姿に戻ったらしい。
それ以降、陛下や王太子殿下は、何かと我が家を気にかけてくれるようになったので、そこは良かったのかもしれない。
我が領地は避寒地であり、冬場には王族の憩いの場となった。おかげで領地は更に潤った。
◆
二回目に使ったのは、十歳の頃だった。
私とお母様は、同じ派閥のクロクス侯爵家のお茶会に呼ばれていた。
お茶会は同じ派閥の奥様たちの交流会ということもあり、終始和やかに進んだことを覚えている。
クロクス侯爵邸は庭が広く、自然と人の手が入ったものが融合した庭の作りが素晴らしいことで有名だった。
そのため、お茶会の会場によく選ばれていた。
お茶会の序盤は、子供たちも席についてマナーを守りつつお茶とお菓子を楽しみ、後半になると、大人たちは会話を楽しみ、子供たちは庭で遊ぶのがいつもの流れだった。
しかし、終盤に事件が起きた。一人の子供が池に落ちたのだ。
この池は元々クロクス侯爵家の敷地内にあった自然にできたものに橋をかけるなどして整備したもので、とてつもない透明度を誇っていた。そのため、魚の影もよく見えるが、そこそこ深い。子供が一人で近づくことは禁じられていたが、それを守らなかった子がいたのだ。
大人たちも事態に気づいたが、その場にいた者のほとんどが、ご婦人方。下手に池に入れば、ドレスが水を吸って二次被害が起きるため、動けないでいた。
ようやくクロクス家の護衛騎士が駆けつけたが、池から救出された子供は顔が青白く、もはや何の反応も示さなかった。
護衛騎士が懸命に救命処置を試みたが、彼の意識が戻ることはなかった……。
溺れた子供は、クロクス侯爵家の長男、ローランド様だった。
茶色の髪が水で顔に張り付き、人形のように白くなったあの顔を、私は忘れることはできないだろう。
今でこそ、自分の邸宅の庭で何をやっているのだと思えるけど、当時は余計なことを考えている余裕はなかった。
そして、嘆き悲しむクロクス夫人の姿に胸を痛め、動かないローランド様をこれ以上見たくなかった私は、二度目の蘇生魔法を使った。
「うわああああーーーー!? ぼく、死んだーーーー!?」
陛下と同じような叫び声を上げて、ローランド様は蘇生した。
彼のオレンジ色の瞳が私を捉えたのと同時に、私はまた意識を失った。
目が覚めると、ローランド様は私の婚約者になっていた。
豪奢な邸宅とは裏腹に、クロクス侯爵家には蘇生魔法の対価を支払えるだけの資金がなかったという。その代わりとして、私とローランド様の婚約が結ばれたらしい。
いや、一般的な貴族と同じくらいの資産はあるが、私の蘇生魔法にはそれ以上の値段がついていたのだ。
勝手に蘇生魔法を使ったことを、私は父に詫びた。しかし、クロクス侯爵家が所有する鉱山の権利を一部得られたため、父は怒らなかった。
しかし、私が使える蘇生魔法はあと二回。
ただし、これからはむやみに使ってはならないと釘を刺された。
今後、父は私の蘇生魔法を王族のためだけに使わせると決めたらしい。
これは、王族に恩を売ることと、王家くらいしか蘇生魔法の対価を支払える家がないから、ということだった。
それに、他の者に使っても余計なトラブルになることが目に見えていたので、それが良いと私も同意したのだった。
私は学園卒業後は侍女として王宮に入ることが決まっていた。
ローランド様の家は騎士の家系だ。彼自身も王太子殿下の護衛騎士を目指していたため、私が王宮へ入ることにも反対されなかった。
まあ、命の恩人の家の方針に口は出せないと思うが……。
その後は、特に蘇生魔法が必要な場面に遭遇することなく、無事に成長した。
王立学園へと入学し、私はいざという時のために王太子殿下の近くにいることを許された。もちろん、殿下の護衛騎士を目指すローランド様もだ。
しかし、ローランド様が聖女であるルース様の護衛を引き受けたことで、状況は変わった。私は彼に殺され、自分の蘇生に貴重な一回を使うことになってしまった……。
「まあ、婚約を続けるのは無理ですよねぇ」
子供の頃とはいえ、命を助けた相手に斬り殺されるとは私も思ってはいなかった。
いや、もしかして、私が蘇生したことをローランド様は知らないのか?
そういえば、これまで彼から当時の話を聞いたことはない。
私は、ローランド様がトラウマだから話したくないのだと思っていたから、こちらから話題にしたことはなかったのだが……。
たとえ彼が誠心誠意謝罪してきても、元の関係に戻るのは難しい。私を斬りつけた瞬間の怒りと表情が、今も脳裏に焼き付いており、正直トラウマになっている。
「私としては、例の鉱山を丸々いただいたので、文句はないがね。慰謝料もたんまりいただいたし……」
「あなた?」
お父様の利益しか見ていない言い分に、お母様が睨む。
「も、もちろん、ソニアを傷つけたことは許さんがね。そもそも、私はこの婚約はあまり良く思っていなかった。同派閥間で特に共同事業もする予定がないのに、詫び婚約はなぁ……」
「あちらは騎士系の家ですからね。新しい事業を共同でするのも難しいでしょう……」
と、お兄様。
暗に、クロクス侯爵家が脳筋だと言っている。
「問題は、ソニアの婚約だが……」
「私としては、しばらくはそういうのは結構ですけどね……」
「まあ、我が家の資産は潤っていますし、急ぐこともないでしょう」
「そうだな」
そんなわけで、次の婚約者はゆっくり探すことになった。
今は心が麻痺しているのか、婚約破棄については何も感じなかった。心の痛みを自覚すれば泣いてしまいそうなので、あえて考えないようにした。
しばらくはゆっくり休もう。
結婚できなくても、私は宮廷侍女として頑張る予定なので、問題はない。お一人様の未来も想定しているので大丈夫だ。
◆
「ソニア・フラワリングケール伯爵令嬢! 俺と結婚してほしい!」
「え、ええ……?(困惑)」
ローランド様との婚約が書類上正式に破棄された翌日、王太子殿下のサディアス様が求婚しにやってきたのは想定外だった……。




