2.生き返りました!?
◆
「ギエーーーーッ!? 私、死んだんですけどーーーー!?」
その言葉と共に、私は復活した。
「ソニア!」
「蘇ったか!!」
気づくと、家族がベッドのそばで涙を流していた。
「……お父様、お兄様」
「良かった、生きてた……」
「お母様……」
お母様も泣きながら、私の無事を喜んでくれていた。
でも、私の心は沈んでいた。
「申し訳ありません。〝特異魔法〟の貴重な一回を、自分に使ってしまいました……」
なんて勿体無いことをしてしまったのだろう……。
「気に病むな。お前が生きていることが何よりなのだから」
そう言われる程度には私は家族に愛されていたようだ。
この世界には〝特異魔法〟と呼ばれる術式を使わなくても生まれつき使える魔法がある。
使える魔法はピンからキリまであるが、私の特異魔法は〝蘇生〟だった。しかも、他人にも使えるという、かなりレアな特異魔法だ。
ただし、使用回数には制限がある。さらに、対象者が一度完全に死亡しなければ発動しない。それでも貴重な魔法であることに変わりはなく、私が学園で王太子殿下のそばにいたのもそれが理由だった。
私が〝蘇生〟を使えるのは、全部で四回だ。これまでに二回使っており、今回の蘇生でさらに一回消費してしまった。
〝蘇生〟魔法を使えるのは、あと一回だけとなってしまった……。
「だが、今回の一件でローランド殿との婚約は破棄された。貴重な〝蘇生〟魔法を無駄に使わせたことも問題だが、何の咎もないお前を躊躇なく斬り捨てたことが重く見られた」
一瞬とはいえ、私が死んでいたことも事実なので、仕方がなかった。
「そう、ですか……」
今は、悲しみよりも、ローランド様への失望の方が強かった。
◆
その後、三日ほどで私はベッドから起きられるようになった。
肉体の怪我は蘇生魔法の影響で回復していたが、その分魔力をかなり消費していた。蘇生魔法ともなると、魔法をある程度使い慣れていてもこうなってしまうのだ。
そして、何とか日常生活を送れるようになった頃、ことの顛末を知ることができた。
私を斬り捨てたローランド様は、尚も私を斬りつけようとしたため、追いついた王太子殿下の護衛に取り押さえられた。
ローランド様は拘束され、ルース嬢と彼女と一緒にいた彼は保護されたという。
ルース嬢はどうやら、自分の意思で行方を晦まし、身を隠していたようだ。
彼女には婚約者がいたが、彼は大きな商会の息子で、身分は平民だった。神殿は、彼女を能力の高い聖女として売り出そうとしていた。そのため、邪魔な元の婚約を破棄させ、高位貴族、できれば王族と婚約させようと目論んでいたらしい。
「それで、駆け落ちしようとしたそうだ」
「聖女とはいえ、その婚約関係・婚姻関係に口は出してはいけない。これは、神殿の掟でもあるはずなんだけどね」
その結果、この国の神殿には、総本山である『聖浄大神殿』から監査が入ることになった。
聖女の力は、子供を産んでも失われることはない。しかし、冷遇されたり、意に反する行いを強要されたりすると、弱まることがあるらしい。
また、その力は高確率で子供に遺伝するので、婚姻は禁止されていないのだ。そのため、今回のような神殿の行為は禁止されている。
「それで、ローランド様は?」
私は一番言いづらいであろうことを問いかける。
父はまだ怒りが収まらず、母も大きなショックを受けていた。二人とも冷静に説明できないため、兄がその役を引き受けたのだ。
「彼は一時期、貴賓牢に入れられて事情を訊かれていたが、今は邸宅に戻って謹慎中だ。
ソニアを斬った理由は、『自分の婚約者がルース嬢を攫った犯人だと思った』『ルース嬢を害したのも許せなかったし、愛する自分の婚約者が、これから罪人として生きることに耐えられなかったから』と証言しているらしい」
貴族が罪を犯しても、それが家同士の問題であれば、本人は邸宅に返される。これは、賠償の準備をさせるためであり、同時に〝家〟が下す罰に重きを置いているからだ。
どのような処分を下したかによって、その家の今後の立場が決まる。そのため、罪人への処分は慎重に決める必要があるのだ。
もちろん、国や王族に牙を剥いたという場合は別だが。
「えぇ? 意味がわからないのですが……」
『愛する』って……最近は嫌われていましたけど?
私は学園でローランド様に向けられていた冷たい眼差しを思い出す。絶対、愛とかそういう感情はなかったと思う。
むしろ、ルース嬢に心変わりをしていたのでは?
「だよな。だから、精神鑑定にかけられた。まあ、異常はなかったみたいだが……」
「そ、そうですか……」
それで正常なのか……。その方が問題なのでは?
「とにかく、ローランド殿との婚約は相手有責で破綻となった。書類上のやり取りは既に済んでいる。近々、その確認のために顔を合わせるが……」
「私も出席します」
「無理はしなくてもいいぞ?」
「大丈夫です。ケジメは、いつかつけなければならないでしょう? ここで断ったら、今後もローランド様に付きまとわれるような気がします。そうなれば、次の婚約にも影響が出るかもしれませんし」
まあ、当分、婚約とか勘弁ですが……。
「そうか」
お父様も了承してくれた。
そして、両家の話し合いは、二週間後に決まった。
◆◇◆
時間はソニアが目覚める前に遡る。
「ローランド、なぜこのようなことをした?」
「そ、それは……」
騎士団での尋問を終え、クロクス侯爵邸に帰されたローランドは口ごもった。
「──まあいい。お前が答えなくても、騎士団から尋問の内容が届いている。まったく、自分の命を救ってくれた恩人を、その手にかけるとはな……」
「え? それはどういう……?」
「何だ、知らないのか? それとも覚えていないだけか? お前は子供の頃、一度死んでいるのだ。それを救ったのがソニア嬢の特異魔法〝蘇生〟だ」
「と、特異魔法? 蘇生!?」
ローランドの驚きぶりに、彼の父は呆れた顔をした。
防犯上の理由から、ソニアの特異魔法が〝蘇生〟であることまでは教えていなかった。だが、彼女が希少な特異魔法を持っていることと、その力で過去にローランドが救われたことは説明していた。それを覚えていないのだから、父親が呆れるのも当然だった。
勘の良い者なら、その情報だけで、正解とはいかないまでも、近い答えを導き出していただろう。
「で、ですが、ソニアはルース様を嫉妬で害していたと……」
「そんな事実はない」
「は?」
「フラワリングケール伯爵家には時折、〝蘇生〟の特異魔法を持って生まれる者がいる。蘇生には使用回数に制限がある。そのため、大抵は王族を守るために使われてきた。
学園に同年代の王族がいれば、その側近として常にそばに控えることになる。つまり、ソニア嬢が一人で行動する時間はほとんどない。ルース嬢に嫌がらせをする機会など、あるはずがない」
「そ、それじゃあ……」
「確かにルース嬢に付きまとっていた生徒はいたようだが、それはソニア嬢とは関係がない。宮廷の〝影〟が調べた結果、犯人はルース嬢に懸想していた一部の男子生徒だと判明した。いわゆる、好意をこじらせたストーカーというやつだな」
「──っ」
ローランドはルース嬢に起きていたことを思い出す。
私物がなくなる。誰かにつけられている。良からぬ噂を流される。視線を感じる──。
よく考えれば、どれも嫌がらせというよりは、ストーカー気質の人物が目標の相手に行う行動といってもいいものだった。
彼女のお気に入りのハンカチが、ひどく汚された状態で見つかったこともある。見つかった場所は、学園の敷地内にある、人が滅多に訪れない庭園だった。
しかし、故意に彼女に見せつけるために置かれたようには見えなかった。持ち主がうっかり落としたか、汚れたために捨てたようにも思える。
それに、ハンカチにこびりついていたあの粘液状のものは……。
「ルース嬢が姿を消したのは、相思相愛の元婚約者と駆け落ちをするためだ。これは神殿が欲をかいた結果だ。
ソニア嬢はまったく関わってはいない。お前が路地裏で見つけた時は、駆け落ち中のルース嬢をソニア嬢がたまたま見つけたところだったのだ」
「そんな……」
「つまり、お前は勘違いでソニア嬢を殺害した。その結果、本来は王族のために残しておくべき希少な蘇生魔法を、余分に一回使わせたということだ。蘇生魔法は、その対象が完全に死なないと発動はしないからな。
まったく、損害賠償だけでどれほどになるか……」
ローランドは父親の嘆きを聞きながら絶望したのだった。




