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しかし、MPが足りない。~ 記憶持ちのリグノ君の地獄ハーレム ~  作者: 土家右玉
青髪の少女

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イビルコング

杞憂(きゆう)であって欲しかった。


だが、違和感の正体が姿を現す。不意打ちをかますつもりだったのだろう。デカい図体のくせに、こそこそ隠れていたらしい。情けない奴だ。


数は一、二、三----七体か。囲まれている。


「やべぇな」

ロッドが呟(つぶや)く。


「確かに」

サルの顔にコウモリの羽、それに2mを超える巨躯。イビルコングが7体。B級のモンスター。D級、E級の冒険者が20人ぐらいじゃ、逆立ちしても勝てない。


「どうすんだ?」


「助けを呼びに行く。」

騎士団が野営しているところまで、300mぐらいだ。増援を呼べれば数で押せる。


会話している間にも、イビルコング共がじりじりと輪を縮めてくる。近くで見るとそのデカさがよくわかる。高さは勿論だが、横も厚みも。圧倒的な存在感。脚が震え、冷や汗が出る。


距離が10mぐらいまで詰まったところで、イビルコング共が大声を上げて一斉に叫びだした。

「グガァヴォッヴォォォブゥルルル!!」


四方からくる低い獣の声に身が竦(すく)みそうになる。


「"シャウト"か」

恐慌(きょうこう)状態を誘発する威嚇魔法。吞(の)まれれば、逃げることも出来ず、その場で立ち尽くすことしかできない。


左手をグーパーしながら確認する。デカい声にビビりはしたが、俺には効かなかったようだ。


ロッドの方をチラリとみると、向こうも見返してきた。ロッドも大丈夫そうだ。だが、周りを見ると半数近くの冒険者が魔法に呑まれている。ただでさえ、戦力差があるのに、まずすぎる。


奥を見ると既に戦っている冒険者がいた。青髪(ヴィア)だ。一体倒したのか、近くにはイビルコングのでかい図体が転がっていた。今は3体を相手に一人で奮闘している。一匹倒したことでヘイトが向いたのだろう。強いと聞いていたが、一対三では流石に分が悪そうだ。


「俺が囮(おとり)をする。」

ロッドが提案してきた。


「わかった。」

情けないが、俺では囮にすらならない。とりあえず、俺たちの目の前にいる一体を抜けさえすれば、騎士団のところまで行き着く事が出来る。


左右に分かれながらロッドと距離を取る。ロッドは敵に近づきながら、俺は遠ざかりながら、じりじりと間合いを取る。うまく釣られてくれるといいのだけど・・・。


ロッドが剣を構え、それを見て、俺はイビルコングの横を目掛けて駆け出す。が、警戒していたのか先に周り込まれてしまう。


「くそっ」

そうそううまくは行かない。敵は俺を通す気がないみたいだ。考える間もなくイビルコングがこちらに向かって距離を詰めてくる。


『やばい』

バックステップで距離を取る。

目の前でイビルコングの太い右腕がブンと空気を薙いだ。膂力(りょりょく)に任せた横からの攻撃。届かないと思った瞬間リーチが伸びた。そして、俺の体が後ろに吹っ飛ぶ。


『あ、当たった?』

いや、その前に後ろに蹴られたような。ロッドに蹴っ飛ばされたのか?そうでなければ、俺の首と胴体は既に離れているだろう。


「恩に着る。」

立ち上がりながら礼を言う。


「いいさ。」

ロッドが剣を切り返して、イビルコングを牽制(けんせい)する。


状況は非常に悪い。横を抜けようにも、無防備になったところをさっきの攻撃がまた来るだけだ、今度も当たらないという保証はない。それに、後ろで戦っている冒険者達もいつまで持つかは分からない。もう一匹こちらに来た時点で詰みだ。


「どうする?」

ロッドが再び聞いてきた。


「今度は俺が囮になる。そっちが助けを呼びに言ってくれ。」

イビルコングが俺の逃走を警戒しているなら、逆にロッドの方が抜きやすくなるだろう。


「分かった。」

ロッドはこっちをチラと見たが、反論はしてこなかった。


ギルドのモンスター図鑑には、"イビルコングはイラつくとシャウトを連発してくる習性がある。"と書かれていた。微妙に知性が高いせいで、煽(あお)りに弱いんだな。うまく利用できればチャンスはある。もっとも俺が生き残れるかは別問題だが。


再び左右に分かれながらロッドと距離を取る。今度は俺が敵に近づきながら、ロッドは遠ざかりながら・・・ロッドと距離が離れたところでイビルコングに向けて挑発をする。


「プォッヴォォォヴォォォプシュウゥウゥゥゥウ」

喉を鳴らして、へたくそなシャウトを披露する。ついでにベロ出しと中指立を添えてやった。煽(あお)り三点セット ヘイ、お待ち。


「ぐぉぉおおおお!」


目の前の羽付きゴリラ(イビルコング)が低い呻(うめ)き声を上げる。馬鹿にされたのが雰囲気で伝わったのだろう。こんな安いのにつられるんだな。


ヘイトが俺に向いたのを見て、ロッドが横を抜けた。イビルコングがこちらに向かって突進してくる。早い。そして、再び右腕をブンと振る。これが相手の間合いなんだろう。さっきは届かないと思ったが、想像以上にリーチは長い。避けられない。だけど、それでいい。本能に逆らう行動だが、あえてゴリラに向けて距離を詰める。


「その攻撃はさっき見たんだよ。」


攻撃が当たる瞬間、俺は握り込んでいた砂をモンスター目がけてぶちまける。転んだ時に拾っておいたものだ、同時に丸太が直撃したような衝撃がきた。


「ぶっつ、がほっ、ぐはっ・・・」


無様に、地面に転ぶ。やばい、あばらと肩をやられたかもしれない。ゴリラは目に砂が入ったことで、一瞬狼狽したが、直ぐにこちらに向けて咆哮してきた。


「グガァヴォッヴォォォブゥルルル!!」

2度目の|シャウト(威嚇魔法)。イラついている証拠だ。


『よし、狙い通りシャウトを引き出した』


俺は敢(あ)えて目を見開き、口を開け石像のように棒立ちした。恐慌状態に陥ったふり(・・)、目の前のゴリラがそれをみて、ニタニタと嗤(わら)いながら近づいてきた。そして、俺の顔面目掛けて、振りかかぶって右ストレートを放つ。


怒りは賢者を愚者に、油断は強者を弱者にする。モンスターだって同じだろう。緩慢なパンチ、一瞬の隙。だけどそれでいい。それを見逃さない。


ふりを止めて、素早くゴリラの懐に潜り込む。メイスを相手の右目に向けて振りかざす。俺が撃てる(・・・・)唯一の攻撃魔法。


「プチファイアアアアアアア!」

簡易詠唱と同時に小火球が至近距離でゴリラに炸裂し、顔面付近を焼く。


「コギィイイイイ」

イビルコングが高い声をあげて、悶絶しながら、片膝をつく。よし時間は十分に稼げた筈(はず)だ。ここからこいつがロッドに追いつくことは不可能だろう。


後は増援が来るまで耐えれるかだが、正直今のやり取りでいっぱいいっぱいだ。MPはさっきの魔法で空だし、動くたびに肋骨が軋(きし)む。


イビルコングが怒りの形相でこちらを睨(にら)む。イビル(あくま)の由来はこいつに羽がついてるからじゃない。怒りの形相が悪魔に似ているからだ。もっとも目の前のこいつの顔は半分焼け爛(ただ)れている。右目は見えていないだろう。


『さてさて』


砂かけババアのマネをして時間を稼ぐか?


考える間もなく、ゴリラが立ち上がり間合いを詰めてくる。右からのストレートパンチ、今度の攻撃は耳を少し掠(かす)める。


『グッ』

少し当たっただけなのに、ジンと耳が痛む、直撃すれば即死だな。今の攻撃も右目を潰していなければ、間違いなくあてられていただろう。こいつが片目での戦いに慣れればその時点で詰みだ。


ヘビィ級のボクサーと素人が戦っているようなものだな、まともにやって勝てるわけがない。左回りにステップしながら距離を取る。ついでに握り込んでいた砂を目の前にぶちまけるのも忘れない。傍(はた)からみれば恰好悪いだろう。でもどうでもいい。


目の前のイビルコングがまた咆哮した。3度目の|シャウト(威嚇魔法)。重低音にビビりはするが、俺には効かない。むしろチャンスとばかりに、距離をとる。


『フゥ』

騎士団が来るまであとどのくらいだ?1分か、2分か?後ろの連中はあとどれくらい持つ?ロッドはもう騎士団の野営地に着いたのか?青髪(ヴィア)は3匹を相手に生きているのだろうか?胸と肩は思ったほど重症ではないみたいだ、いや、興奮状態のおかげで、痛みを感じにくくなってるのか?


四度(よたび)、イビルコングが間合いを詰めてくる。鬼ごっこではまず勝てない。左からの薙(な)ぐような攻撃。右からの攻撃よりも遅い。ギリギリの所で避ける。


こいつやっぱ右利きだな。右目を潰しておいて正解だ。左からの攻撃は右よりも脅威を感じない。といってもまともに当たれば当然のように死ぬだろう。


今度は右と左のコンビネーション飛んできた。ブン、ブン、と空気を薙ぐ音が二回聞こえる。だけど、距離が全然あっていない。向こうも少し疲れてきたのか、それとも痛みのせいか攻撃が緩慢になってる?必要以上に近づいてこないのは魔法と砂かけを警戒しているからか?グルグルと思考が回る。


バックステップし、距離を稼ぐ。最初に居た焚火の地点に戻ってきた。逃がすまいとゴリラは距離を詰めてくる。くそっ。


考える間もなく左のフックが飛んでくる。今までと違う軌道 不意を付かれて、とっさにメイスでガードする。


「メキギッ、ガギィッ!」

パンチがメイスを直撃する。そのままの勢いで後方に跳ねる。いや、吹き飛ばされた。


さらに怒りの形相のモンスターが、俺を目がけて突っ込んでくる。俺はとっさに靴のつま先で土を拾い上げ、ゴリラめがけてぶちまける。同時に焚火の傍にあったダガーナイフを取り、イビルコングの右目に目がけて投げつけた。刃の部分が火に当たっていたから、十分に加熱されているだろう。


うっとおしいとばかりに俺の土煙をイビルコングは土を払った。そのせいで次にくるダガーナイフを弾くことは出来ない。ナイフがガンと顔面右側にあたる。刺さりはしなかった。だけど、傷口にに高温の金属を押し付けられたのだ、一瞬でも熱かったのだろう。"ぐおぉ"と呻き声を上げる。


俺は体勢を立て直し逃げる様に距離をとる。


焚火を挟んでゴリラと相対する。激憤の形相で再びこちらを睨んできた。もう武器はない。"素手でやるかい、チャンピオン?"なんてセリフを吐けたらかっこいいんだけどな。実際は逃げ回る事しかできない。


再び接近してからの左パンチ、焚火が間にあるせいで攻撃しづらそうだ。イビルコングは本来火を恐れない(と書いていた)。だけど、流石に2度も火傷(やけど)を負わされれば、火を見るのも嫌なのだろう。それに攻撃がさっきより更に遅い。避けながら、砂をぶちまける。小さめの石も投げてやった。対して効かないだろうが、嫌がらせには十分だ。そして、こいつらはイラつくと咆哮をしてくる習性がある。それで距離と時間を稼ぐ。


思った通りにイビルコングが天に向かって大口を開ける。咆哮(シャウト)が来る。しかし、それが罠だった。


『しまった!』


そう思った時には遅かった。こいつが今まで俺に攻撃を当てれなかった理由は、右目を潰されているからだ。つまり、距離を合わせづらい事。そして、俺が左側に回転するように逃げるため、位置を合わせづらい事。この2つによって直撃を免(まぬが)れていた。


だけど、俺が唯一直線的な動きをする瞬間がある。イビルコングから距離を取る時だ。こいつはそのタイミングをシャウトをする振り(・・)をする事で引き出した。俺が敵を観察してたように、敵もまた俺を観察してたのだ。


逃げようとした俺に、急激にイビルコングが距離を詰めてくる。今の俺を捉(とら)えるだけなら片目で十分だ。油断は強者を弱者にする。では弱者が油断をすればどうなるか?

答えは"死"だ。


慌てて左に回避しようとする。間に合わない。


ダメだ!と思った瞬間イビルコングの右腕がドサリと地面に落ちた。


「大丈夫か!」


こいつは確かソムセス。騎士団が来たのか?予想より早い。イビルコングが攻撃の対象を変更し、残った腕で反撃しようとする。だが、振りかぶる前に事は全て完結していた。


 紫電一閃


ゴリラの首から上が地面に落ちる。


「大丈夫か!」

もう一度聞かれた。頷(うなづ)くと同時に、冒険者がいる方を指す。後に続くように騎士団の援軍が次々と来た。


それを感じたのか、冒険者を襲っていたイビルコング達が我先にと散(ち)り散(ぢ)りに撤退していった。

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