急転
「ここまでで何か問いはあるか?」
目の前の騎士が事務的な態度で話す。
「・・・・」
質問がないのを確認し、騎士が自問するように、一回頷く。
「前にも言ったが、私の名は"ソムセス"だ、野営中に何かあれば、私まで取り次ぐように。」
最後にそう言い残し、騎士は部下を連れだって去っていった。
領主長男の外遊も無事に終わり、今は帰路についているところだ。
全七日の行程の六日目で、初日に泊まった広場で一泊すれば、明日はグロッテンベルグに戻れる。
この分だと、護衛依頼は何事もなく終わりそうだな。
それにしても、あのソムセスとかいう騎士、初日とほぼ同じことを言っていたな。俺たち冒険者を管理する担当者らしいのだが、終始事務的な態度を崩さなかった。傍から見ていて、よく飽きないものだと思う。
『ガッチョーーーーン』
いきなり一発ギャグなんてやられても、それはそれで引くんだけど。
で、この流れでいうと・・・。
「よおっ、角ネズミの人。」
こいつが話しかけてくるのも必然なわけで。
「なんか用事か?ロッド?」
俺も一日目と同じセリフを吐く。
「なんだ、相変わらず連れねぇな。」
「肉はもうないぞ。」
「わーってるよ。いつから俺はリグノに飯をたかるキャラになったんだ。」
角ネズミ肉の燻製の件で、ロッドとの距離感が前より少し近くなった。そして、相変わらず声がでかい。
六日目ともなると、みんな疲れていて静かにしたいのだろう。そのせいで、俺まで変な注目を浴びてしまっている。
こないだ酒場であった例の青髪の剣士も、ちらりとこちらを見た。
そういや、青髪とは遠征中1回も話さなかったな。というよりも、他人と話をしているのを見たことがない。まあ、余所者なんだろうし、ここの冒険者に親しい人間はいないのだろう。
「ああ、ヴィアか?」
「ヴィア?」
「あの青髪の女剣士の名前さ、そういや、リグノはパーティを首になって、昼ごもり中だったな。知らないのも無理はないか。」
「本気を出してないだけだ。」
「そうだといいが。」
ロッドがあきれたような声を出す。
再び、青髪の方を見る。もうこちらには関心がないのか、自分の寝床に向かうみたいだ。
「なんだ気になるのか?」
「美人だしな。」
女を見る理由としては一番説得力があるだろう。俺の場合は別の理由だけど。
「今はソロらしいぜ、でも、ナンパをするのもパーティを組むのもあまりオススメしないけどな。」
「なんかあるのか?」
「男嫌いって話らしい。」
「ふ~ん」
初対面の時に睨まれたのを思い出す。
「3週間程前にグロッテンブルクに来たらしい。実力はあるんだろうけどなぁ、なんせ、"ハディング"のパーティに入れるぐらいだからな。」
「それは」
ハディングのパーティといえば、A級冒険者のハディングを筆頭に、B級の女性三人で構成された、いわゆるハーレムパーティだ。確か、メンバーの一人が妊娠中だったはずで、青髪はその穴埋め要員として入ったのだろう。
ハディングは女癖が悪い。男嫌いの青髪からすれば、男が一人だけのパーティならまだマシかと思ったのかもしれないが、逆に大外れだったわけだ。
今はソロだと言っていたが、たぶんその手のトラブルで抜けたのだろう。
「遠征中もヴィアに声をかける男はいなかったろ。全員撃沈済みってわけさ。」
「お前も、撃沈済みか?」
「いや、俺は・・・」
ああ、そういや、こいつ彼女いたな。死ね。
「ま、どっちにしろ俺じゃ相手にされないだろう。」
「チャンスはゼロじゃないさ」
ロッドが肩をすくめる。別にナンパをする気もパーティを組むきもない。ロッドも俺が本気だとは思っていないだろう。
そこまで話したところで違和感に気づく。先ほどまでうるさいぐらいに辺りに響いていた虫の音が聞こえない。
「まずいぞ!」
「なにが?」
呑気に問い返される。
「森が静かすぎる。」
「っ!?」
ロッドも気づいたらしく、左腰のショートソードに手をかけた。この切り替えの早さは、さすがと言うべきか。
「気をつけろ!!」
デカい声で周りに注意を促す。焚火の傍に手入れ中のダガーナイフを置く。代わりにメイスを握った。
周りの冒険者が何事かとこちらを見る。もう一度"気をつけろ!"と叫んだ。それで、何人かの冒険者が漸く、辺りを警戒しだした。
青髪は既に臨戦態勢だった。




