理由
え?聞き間違いかな。なんか変な単語が聞こえたのだけど。
マリ姉を見る。いつも通りの糸目で俯いたヴィアを見ている。何を考えているかは分からない。
「な・・・」
「説明してくれないかしら」
俺が口を開こうと思ったら、先にマリ姉が言葉を発した。
「もし、本当にリグノが"アンチカース"を覚えてくれるなら、問題はリグノのMP量が足りない事だけ。」
ヴィアが俯いたまま話す。
「そうね。」
「だから、私のスキルでその欠点を補う事が出来れば妹の"呪い"を解くことができる。」
ヴィアの答えはおおむね想像通りだ。問題はその先だ。
「さっきも言った通り、私が男を信用できればスキルが元に戻るかも知れない。」
「その方法が、セックス?」
マリ姉が確認するように言った。聞き間違いじゃないのか・・・。
「そう。」
ヴィアは俯いたままだ。
「ヴィアちゃんは、リグノの事どう思っているの。」
「・・・よく分からない。」
ヴィアが答える。
「そういうのは、自分の想い人とするものなの。それに、きちんと段階を踏む必要があるのよ。」
諭すような声だ。マリ姉はどうやらヴィアの提案に反対みたいだ。俺が下手に喋るより任せた方がよさそうだな。成り行きを見守ろう。
「意味ぐらい知っている。それに、好きでない人とも出来る。特に男は。」
馬鹿にされたと思ったのか、ヴィアが反論する。
「それはそうだけど。」
この世界の倫理観は前世に比べてガバガバだ、いや、逆に前世よりはまともとも言えるのかな?性に対するハードルは前世より低いのは間違いないけど。
「私は妹の呪いを解くためならなんだってする。体を開くなんて些細なこと。」
そういや、この娘、花街で働こうとしていたな。結局、ダメだったみたいだけど。
「それにしたって短絡的よね。もっと、いい方法があるような気もするけど。」
マリ姉が眉根を寄せる。これほど困った顔が似合う人も珍しい。
「別に成功しなくても責めない。どうせダメなら早い方が良い。」
そんな牛丼みたいに。
「まぁ言いたいことは分かったわ。でも本当に相手がリグノでいいのかしら?」
「リグノが断るなら別の人にお願いするだけ。」
ヴィアはこちらを見ない。どういう感情なのかは読み取れない。まぁ、表情を観れても分からないのは一緒かもしれないが。
「確かに、男なんて、吐いて捨てる程いるわね。でも大半はしょうもないのばっかりよ、屑で自分勝手で、女の事など道具程度にしか思ってないなんてのもいるわ。」
なんか、マリ姉の台詞っぽくない。リナの父親の事を思い出しているのだろうか。
「良く知ってる。」
ヴィアが同意する。
その男にカテゴライズされる人間がここにいるのですが?聞いてるだけで肩身が狭い。
「かえって、男嫌いに拍車をかけないかしら。」
「試さなかった方が後悔する。」
「劇薬よねぇ。誰かが優しくエスコートすれば話は変わるのだろうけど。」
マリ姉がチラリとこちらを見た。
『あれ?』
「それに、確かに男という生き物を理解できれば、ヴィアちゃんのスキルが元に戻るかもというのは一理あるわね。」
また、マリ姉がチラリとこちらを見た。
『ぐっ・・』
この人、味方の振りをして、外堀を埋めやがった。
「・・・・」
ヴィアが真っすぐこっちを見た。少し顔が赤い。
「リグノはここまで来て逃げ出すのかしら?女の子にここまで言わせて。外に放り出すの?ヴィアちゃんが傷ついても自分の知った事ではないと。」
「そんな事思っていない。」
「うんうん。お互いに合意がとれたようね。」
あれを同意ととるか?確かに消極的同意とも取れるけど。俺がヴィアに抱いているのは、劣情ではないんだけど、でも、ここで拒絶するとどうなる?思考がグルグル回る。
『・・・・』
「ヴィアさん、至らないかもしれないけど、きちんと優しくするから。」
なんの宣言?知った事か。でも逃げれる状況でもないなら。攻めるしかない。
「リグノ・・・」
ヴィアの瞳が少しだけ潤んでいる。
「まぁまぁ」
マリ姉がチャチャを入れる。この人楽しんでないか?
「でもその前にやる事がある。」
「やる事?」
マリ姉が言った。
「これを覚えるのが先」
テーブルの上にあるコデックス方式で製本されている二冊の魔法書を手に取る。
読み込めば、"カーズ"と"アンチカーズ"が覚えられる。
「それはダメ、順番が逆」
ヴィアが言う。
「これは譲れないよ。」
「成功するか分からないのに。」
「それはお互い様だろう。」
「でも・・」
「どうせ冒険者はもう辞めるつもりだったから。」
笑顔で言う。半分本当で、半分嘘だ。




