スキル
身支度を整えたあと、三人がマリ姉の部屋へ集まった。
部屋の空気は重い。ヴィアが作戦の内容を知った以上、失敗した事実も伝えなければならない。残り五日で何もかもは無理だ。せめてもう少し時間があれば。いや、それでも同じか。
『単に馬鹿一人が空回りして、失敗した。』
それだけならよかった。でも、そこに他人の期待が乗っていたら?
「・・・」
短い沈黙。これは俺が言わないといけない。
「ヴィアさん」
静かに息を吐くように呼ぶ。ヴィアの肩が少しだけビクリとした。ここに呼ばれた時点である程度 察しはついてるのだろう。
「マリ姉から聞いてたと思う。俺がレベルを上げて、最大MPを上げようとした事。」
自分で言いながら、残酷だと思った。
「今回の探索でレベル11になって。」
冒険者カードをヴィアの前に出す。
ヴィアが一瞬だけカードに目を落した。
そして、"ふぅ"と息を吐く。
「別に元々期待してなかった。」
「うん」
その言葉はヴィアの優しさなのだろう。結局 俺は誰一人救う事が出来ないのだ。
「・・・・どうして?」
「?」
「あなたには全く関係ない。なのに、どうして私に関わろうとするの。」
感情がこぼれ落ちるような声だった。
ヴィアからすれば、俺は勝手に踏み込んできて、ひっかきまわして、結局何の成果ももたさらなかった迷惑な人間、それ以外の何物でもない。
ヴィアを見る。氷のような瞳の奥で風の揺らぎが見えた。
『ヴィアに関わる理由』
前世からの宿題だから、娘に似ているから。命の恩人だから。マリ姉に頼まれたから。全部正解で全部間違いのような気もする。
イビルコング三体相手に、一瞬観た美しい剣舞、すべての柵を脱ぎ捨て、冒険者として成功するヴィアをみたい。そんな気持ちもある。
「そうしたいと思ったから。」
出た言葉は、答えになっていなかった。でもそれしか言えない。
「マリアーナさんから聞いた、リグノは無暗に人を傷つけたりしない。」
チラリとマリ姉を見る。
「・・・・」
「私は男が嫌い。」
それは知っている。好きなだけ罵ればいい、サンドバックぐらい。いくらでもやる。
「確認したい。本当に、MPの最大値が増えれば、"解呪"の魔法を覚えてくれた?」
青い瞳。脳がチリチリと焼かれる。
「そのつもりだった。」
不毛な問答だ。覚えてはいけない魔法。でも、そんなの関係ない。
「私は男が嫌い。」
また同じ言葉。しかし、続きがあった。
「だけど、リグノのその言葉は信じたいと思う。」
ヴィアが冒険者カードを取り出す。
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ヴィア(17) 女
レベル:29
魔力:7/25
ちから:178
かしこさ:52
きようさ:125
- 魔法 4 -
- スキル 1 -
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相変らず高いステータス。2枚並べると俺の貧弱ステータスが一層際立つ。だが、ヴィアが何をしたいのかは分からなかった。
「スキルのところ」
ヴィアが付け足すように言った。スキル?タップしろという事か。言われるがままにタップする。
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マジックExp.
接触している間、対象のマジックポイント(MP)の最大値を5倍に出来る。但し、異姓には効果がない。
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ヴィアのスキルが表示された。マリ姉も後ろから覗き込んだ。
「対象の|魔力量(MP)を5倍に出来る?」
もしそれが可能なら、MPが足りない問題は解決する。だけど。
「異姓には効果がない。」
ヴィアが静かに言った。
「よくわからないよ。」
今度は俺が説明を求めるようにヴィアを見た。
「このスキル、昔からあるの。・・・でも、昔はこんな限定条件はなかった。たぶん、私が男を信用しなくなったから・・・」
ヴィアが顔を伏せながら言う。嫌な思い出でも思い出しているのだろうか。
「うん」
先を促す。
「増加量も3倍だった。」
範囲が狭まった分、増加量が増えたという事か。スキルには謎が多い。
「もし、私が男を信用できるようになれば、スキルも元に戻るのでは無いかと・・・」
言ってて自身が無いのだろう、最後のは声が小さくなった。
「なるほど」
要するに、ヴィアが男を信用できるようになればスキルが戻り、俺に最大MP増加をかけられる。俺が解呪を覚えれば、ヴィアの妹を救える。そういうことだ。
でもどうやって?男嫌いなんてすぐに治る者ではない。それに、ヴィアの仮説が正しいかも分からない。
「私はリグノの言葉を信じたいと言った。」
それも聞いた。しかし、それだけでスキルが戻るなら苦労はしない。
「うん。」
「・・・・・」
「・・・・・」
「・・・・・」
長い沈黙、お茶をゆっくりと飲む。
それが合図だったかのようにヴィアがポツリと言った。
「私とセックスして欲しい。」
「ゴバッ!!ゴホッ、ゴホッ!」
盛大にお茶を吹いた。




