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しかし、MPが足りない。~ 記憶持ちのリグノ君の地獄ハーレム ~  作者: 土家右玉
青髪の少女

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18/23

ケイブウルフ

「くそっ」

やっぱり三階層目は無理か。毒づきながら来た道を戻る。


ヴィアの妹の“呪い”の話を聞いてから、もう1週間くらい経った。くらい、というのは洞窟ダンジョンに籠もりきりで、時間の感覚がバグっているからだ。髪はボサボサ、爪には黒い垢。湯浴びもしていないので肌はガサガサ、髪はゴワゴワ、歯磨きも当然していない。ミュータンス菌も大喜びだろう。傍から見れば完全に浮浪者だ。


「一旦、帰るか」

独り言も増えた。人と話したいし、太陽も浴びたいし、爪も切りたい。なにより清潔になりたい。水も食料も尽きかけているし、情報も集めたい。


冒険者カードを見る。レベルは10のままだが、次のレベルは案外近い気がしている。前世のゲームみたいに経験値は表示されないから、完全に感覚だ。それでも思ったより早い。一人で前線を張り続けているのが効いているのだろう。安全マージンを殆(ほとん)どとっていない。命を賭(か)けているという意味でもあるが。


ヒュンッ。


考え事をして油断した。目の端で黒い影が走る。


「っ・・・」


右腕に激痛。ナイフを落とす。致命傷を避けられたのは偶然だ。拾う余裕はない。目の前に、俺を傷つけた元凶が姿を現す。


洞窟狼(ケイブウルフ)。


『嘘だろ』

心の中で叫ぶ。ケイブウルフは本来四階層のモンスターだ。3階層でも目撃例はあるが、こんな浅い位置で出るとは。


こいつはチワワを少し大きくした程度の体格で、黒い毛並み。前足には鍬(くわ)のような長い爪、後ろ脚は太く筋肉質で“くの字”に曲がっている。簡単に言うとモグラとウサギを混ぜたような造形だ。なのに狼と呼ばれる理由は好戦的で、団体で行動するからだ。


チラリと後ろを見る。囲まれている。前に一匹、後ろに二匹。しくじった。レベル上げを急ぎすぎた。二階層で問題なかったから三階層もいけるだろう、そんな甘さ。前のパーティで何度も来た経験があるという驕(おご)り。それでも三匹だけなのは不幸中の幸いだ。浅い階層だから数が少ないのかもしれない。


『逃げるのは無理だな』


狼共はすぐには攻撃してこない。不意打ちが失敗したことで、こちらの出方を伺(うかが)っているのだろう。手負いでも油断しない。だが今はそれがありがたい。


懐からメイスを取り出し、マジックポーションを飲む。1本五万セルス。本来ならMPが10回復するが、俺の場合は3しか戻らない。プチファイア1発だけ。それでも当たりさえすれば1匹は倒せる。


作戦を立てる。前の一匹を倒す。俺が手ごわいと分れば向こうが逃げてくれるかもしれない。淡い期待。200メートル先の階段まで行けば、二階層に戻れる。流石にそこまで行けば安全だろう。


『出来るか?いや、やるしかない』


俺が考えている間に、向こうも腹を決めたらしい。前の狼が姿勢を低くし、同時に右後ろの1匹がスクリューしながら突っ込んでくる。


甘い。これは前のパーティで何度も見た。前が攻撃するフリをして、後ろが死角から刺す。分かっていれば避けられる。


「ぐっ」


左足に激痛が走る。前が攻撃のフェイント、右後ろが突撃。回避しようとしたところに左後ろも攻撃。警戒はしていたが、回避中に更に回避は出来ない。メイスで防ごうとしたが、隙間を縫うように突っ込んできた。三匹だけだから逆に連携が良いのか?


左足を見る。肉が抉れている。走って逃げる案は完全に消えた。回復にMPを使うか?いや、攻撃手段がなくなる。回復は無しだ。


幸い、さっきの攻撃で陣形が崩れ、壁を背にできた。死角はない。痛む腕と足が逆に思考を冷静にする。


仕掛けるなら今しかない。俺はボスと思われる狼に飛び込む。こいつは構造上、素早く後ろに下がれない。距離を詰めてプチファイアを叩き込む。一匹倒せれば、何とかなると信じるしかない。


狼が一瞬たじろぐ。距離1メートル。いける。


「プチファイア!!」


だが、狼は斜め前に跳んで避けた。


『外した』


くそ、前に避けるか。意外に度胸があるじゃないか。いや、本能か?かすりはしたがほぼ無傷。そして囲まれ直す。最悪だ。


「ははっ、死ぬな」


奥の手を外したことで絶望が広がる。ここで食い殺されて洞窟の藻屑(もくず)か。

狼共は唸(うな)り声を上げるが、すぐには来ない。じっくり伺っている。だが、ボスが再び合図を送る。今度こそ来る。


「・・・」


「・・・」


『あれ?』

来ない。後ろを見る。囲まれたまま。なぜだ?


再び合図。しかし手下は動かない。俺がメイスを握り直すと、狼共が一瞬たじろぐ。


『ああ、さっきのプチファイアを警戒してるのか。』


最下級魔法でも、俺の"かしこさ"の高さで無詠唱・高威力。モンスターは「まだ撃てる」と思っている。あたれば即死。貧乏くじを引きたくないのだ。


外したが威嚇(いかく)にはなった。これはチャンスだ。俺は鞄から最後のマジックポーションを取り出し、飲む。狼共は警戒したまま。


『たとえ死ぬとしても、やるだけはやる』


俺はクルリと身を反転させる。手下狼が二匹見えた。ボスは何度も攻撃の合図を送っていたが、無視されていた。焦っているはずだ。リーダーとしての資質を証明したいだろう。わかるよ。俺も似たような経験がある。でも同情はしない。おまえが来い。


左右の手下狼がグッと体を落とす。フェイントの攻撃姿勢。この状況では「今から攻撃します」と教えているようなものだ。


『くる』


背後からボスがスクリューしながら飛んでくる。ギリギリで躱(かわ)す。通り過ぎる軌道にプチファイアを叩き込んだ。これは避けられない。


「プチファイアァアアアア!!」


最下級魔法とは思えない光。炎が狼を包む。今度は当たった。


光が収まると、黒炭と化したボスが残った。動かない。焦げ臭い匂いが漂う。


ボスは倒した。残り二匹がどう出るか。俺にはもう抵抗手段がない。メイスを構えて睨(にら)む。二匹は身構えたが、顔を見合わせると撤退していった。


『た、助かった』


だが安心はできない。ナイフを拾い、痛む足を引きずりながら根性で二階層まで上がり傷を見る。右肩と左足は肉が抉れ、血がポタポタ滴り落ちる。鞄を漁るが、マジックポーションはない。


『ふぅ』


一日待てばMPは回復する。それで左足だけでも治して脱出するか?それともこのまま足を引きずって脱出するか?


一・二階層はそこまで強いモンスターはいないし、密度も低い。血を流しすぎた。MP回復を待っても明日生きている保証はない。


決まりだ。気力を振り絞り、出口へ歩き出した。

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