妹
宿屋へ向かう道を、ヴィアと並んで歩く。いや、正確には、ヴィアの後ろを俺がトコトコついていく形だ。
事件の後、詐欺師どもを衛兵に引き渡し、事情聴取まで終えた頃には夕方を過ぎていた。さすがに今からダンジョンに潜る気力はない。ヴィアも同じだろう。
ヴィアがちらりとこちらを見る。何ついて来てんだコイツ?みたいな感じだな。俺の宿もこっちなんだよ。
「なんで金が必要なんだ?」
それも十億セルスなんて・・・後ろからなんとなく声をかける。
「・・・男嫌い」
ヴィアがチラリとこちらを振り返りながら言う。質問への答えにはなっていない。だが会話を拒絶する事への答えにはなっている。
「いいけどさ」
多少は打ち解けたと思ったんだけどな。
「騙す事しか考えてない。」
ヴィアが付け足すように言った。今日の事なのか、それとも別の事なのか。
宿に着くと、マリ姉が俺たちを見て微笑んだ。
「あら、おかえりなさい。珍しい組み合わせね。」
「ただいま」
「ただいま、マリ姉ぇ」
それぞれ挨拶を返す。
「マリアーナさん、妹の様子は?」
ヴィアが尋ねる。
「・・・いつも通りよ。」
マリ姉が答えた。
「妹?」
俺が反応すると、マリ姉はヴィアの方を見た。言っていいか確認しているのだろう。
「どうでもいい。」
ヴィアが投げやりに言う。
「知っても知らなくても意味がない。」
つまり、関係ないからすっこんでろ!そういうことだ。
「・・・・」
「リグノ、それからヴィアちゃん。たまには、お姉ちゃんのお茶に付き合ってくれないかしら」
マリ姉が、短い沈黙の後、手を打ちながら言った。
「なんで・・」
「遠慮する。」
「あら、いいのかしら?リグノにもヴィアちゃんにも色々便宜を図ってるんだけど。お姉ちゃんは非常に悲しい。私なんてもういらないって事ね。ああ、残念、無念」
“よよよ”と、わざとらしく泣き真似をする。面倒くさい。
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結局、脅迫に屈した俺たちはマリ姉の部屋に入った。そういえばここに入るのは初めてだ。
壁に恐ろしい悪魔の面が飾ってあるとか、床に人骨が転がっているとか、そんなことはなく普通の部屋だ。リナは隣で寝ているらしい。後でほっぺをプニプニしておこう。
「何があったのかしら?」
マリ姉がお茶を置きながら聞く。
「別に。詐欺に遭いそうだったのを助けただけだよ。」
「詐欺?」
俺は事情を説明した。
「ふーん。それで、なんでこんな険悪な雰囲気になるのかしら?」
それはこっちが聞きたい。助けたつもりなんだが、ヴィアは“頼んでない”と言いそうだけど。
「まぁいいわ。ところでリグノは、どこまで知ってるのかしら?」
「金が必要ってことだけ」
短く答える。
「そう」
「ヴィアちゃん、リグノに話してもいいかしら?」
「話しても意味がない。でも、マリアーナさんが話したいなら話せばいい。隠しているつもりもない。」
ヴィアが口を開く。
「本当にそう思ってるのかしら?」
「・・・」
「どうでもいいと思ってるなら、どうしてリグノの前で“妹の様子”なんて聞いたのかしら?」
マリ姉、容赦ない。
「本当は知ってほしかったのでしょう?」
「違う。全部どうでもいいと思ったから・・・だから。・・・聖水も無駄。全部どうでもいい。どうせ全部無駄になる。全部面倒くさい。」
ヴィアの心の奥が少しだけ見えた。真顔なのに泣いているように見える。何かに耐えている。だから周りを見る余裕がなく、刺々しい態度になる。
破滅願望を抱きつつ。でも、どこかで助けてほしいとも思っている。そんな矛盾を抱えた感情。
「はぁ、まあいいわ。リグノはどうなのかしら、知りたいのかしら?」
マリ姉が俺に聞く。本当に知りたいのか、という質問だろう。
「教えて欲しい。」
俺ははっきりと言った。単なる野次馬根性ではない。知っても何もできないかもしれない。でも何も知らずにすべてが終わるよりも、知って終わる方が良いと思った。偽善だろう。
ヴィアがチラリとこちらを見た。
この眼を見るたびに、前世の記憶がフラッシュバックする。ヴィアは自分の娘ではない。重ねるのは間違っている。だけど・・・これは前世の俺が忘れて来た宿題なのかもしれない。本当にそう考えている。
「私はね、本当はリグノにはあまり関わって欲しくないと思っているの。リグノがヴィアちゃんを心配しているように、私はリグノを心配している。」
「マリ姉・・・」
姉が弟を心配するような感じなのだろうか?
「でも、リグノなら、ヴィアちゃんの支えになれるんじゃないかとも思っている。」
「・・・」
「だから、これは私の我儘です」
マリ姉は一呼吸置いて言った。
「ヴィアちゃんの妹ね。“呪われている”の」




