ダンジョンデート
「参加する」
「興味ない」
俺とヴィアが別々の返事を返す。
「三人か?」
「いいんじゃない?」
ロッドとシーシアが頷き合っている。
いつもの昼下がりの食堂。ロッドとシーシアのパーティは今日は休みらしい。たまには別メンバーでダンジョンに潜りたいとのことで、暇そうにしていた俺とヴィアが誘われたわけだ。
「しかし、休みの日もダンジョン探索か?」
「ああ。まぁ、朝から街をブラブラしてたんだけどなぁ」
「街だと色々お金がかかるでしょう」
確かに街には誘惑が多い。だからダンジョンデートというわけか。稼ぎにはならないが、散歩がてらということだろう。
「前回の遠征で結構稼いだはずだが?」
冒険者なんていつ死ぬか分からない。だから大金が入るとパーッと使う者も多い。
「ああ、俺ら結婚することにしてよ」
ロッドが照れくさそうに言った。
「それでお金を貯めてるの」
シーシアが右手の薬指に嵌めたリングを見せる。
「そうか、おめでとう!」
俺は笑顔でロッドの肩をバシバシ叩いた。
「おお、なんだよ。随分喜んでくれるんだな。リグノがそんな反応するとは」
そうかもしれない。俺は普段は陰キャだ。でも結婚だよ。多少大げさに喜んだ方がいい。
「ロッドは男の俺から見ても良い奴だ。真っすぐで芯があって、行動力もある。シーシアさん、ロッドをよろしく頼む」
「任されたわ」
シーシアが笑顔で答える。幸せそうな女性の笑顔だ。ロッドの奴が羨ましい。
「なんでリグノが親みたいなこと言うんだよ」
「褒めてやったんだぞ。喜べよ」
「うん、そうか?まぁ、ありがとよ」
ロッドはたまに無鉄砲なところがある。逆にシーシアは一歩引いて考えるタイプだ。シーシアが後ろからロッドを支えれば、良い夫婦になるだろう。
「それで、さっきの話だけど、リグノ君は参加で、ヴィアさんは不参加ということでいいかな?」
「ああ」
「・・・やっぱり、私も行く」
ヴィアがそっけなく答えた。
「じゃあ四人か?」
「いいんじゃない?」
四人でダンジョンの入口まで移動する。入口には守衛がいて、入窟届を出す決まりになっている。パーティの場合はパーティ名だけでいいが、臨時メンバーの場合は全員の名前を紙に書き、ギルドバッジを提示する。
ちなみにダンジョンの入口といっても大きな洞穴があるわけではなく、祠の中にみすぼらしい魔法陣が描かれているだけだ。旧世界の遺塵と呼ばれている。いつからあるのか、仕組みがどうなっているのかは誰も知らない。
「おしっ、準備整ったな」
四人が魔法陣に乗ったのを確認して、ロッドが地面を踵で叩く。ダンジョンポータルは魔法陣に刺激を与えることで発動する。乗れるのは四人まで。五人乗った状態で発動すると、一人だけランダムで別の場所に飛ばされる。
一瞬の浮遊感の後、薄暗いダンジョン内に転移する。この瞬間だけは何度やっても慣れない。
「ポータルマーカーは大丈夫?」
「問題なさそうだ」
シーシアの問いにロッドが答える。
ポータルマーカーは玄関ポータルの方向を常に指す方位磁石のようなアイテムだ。ポータルの位置は毎回変わるため、探索の必須アイテムである。
「方針を再確認したいのだが?」
俺が言う。
「基本的には一階層だけの探索で、狙うのは角ネズミだけ。スライムは無視。」
ロッドが答えた。
一階層にはスライムと角ネズミしか出てこない。普通は無視して二階層に向かうが、今回は暇つぶしなので角ネズミ狙いらしい。
「角ネズミ狙いならいい物を持っている」
「ん?」
「まぁ見てくれ。専用の捕獲器だ」
俺は鞄から角ネズミ捕獲用のトラップを取り出す。
木の板と麻紐を組み合わせた簡易なものだ。素早い角ネズミをなんとか捕まえられないかと苦心して作った。
「ほー」
「どうやって使うの?」
ロッドとシーシアが興味深そうに聞く。
「こうだな」
トラップを地面に置き、実演する。ネズミが餌に食いつくとストッパーが外れ、周囲の麻紐が胴体に巻きつく仕組みだ。
「「おおーっ」」
ロッドとシーシアが分かりやすく驚く。
「まぁ、発動しても三回に二回は空振りだけどな。数も三つしかない」
「いいんじゃない。置いといても損はないし。」
「そうか。じゃあ仕掛けとくか」
置いた位置を忘れて踏んでも怪我をするような作りではない。ポータルから少し離れた地面に軽く穴を掘り、罠を設置する。
その後の探索は特に危険もなく終了した。角ネズミは罠も含めて十二体。パーティだと効率が違う。
金になる角は三本ずつ分けて分配。金にならない肉部分は俺が引き受けた。十二体倒したが、燻製にできそうなのは七体。ヴィアが倒した五体は損傷が激しく加工できそうにない。
それにしても、ヴィアは何を思って参加したのだろう。会話にもほとんど入ってこなかった。ロッドとシーシアが結婚すると聞いてから、不参加から参加に変えた。ヴィアなりの祝福なのだろうか?




