歓楽街
はい、今日も無職でニートのダメ人間が街を歩いてますよっと、いや、無職じゃないか。一応、冒険者だ。はぁ、クラゲみたいにフラフラ生きたい。無色だけに。そんな気分だ。
歩いているのは歓楽街。とはいえ、風俗店と連れ込み宿が道の両側に十軒ほど並んでいるだけの、こぢんまりした場所だ。何気にここを通らないと冒険者酒場に行けないのが面倒くさい。
ちなみに連れ込み宿は合法だけど、風俗店は完全に違法。それでも潰れずに存在しているのは需要があるからだろうし、領主側もある程度黙認しているのだろう。世の中、綺麗ごとだけでは回らない。そういうものだ。
俺?入ったことないよ。だって、この街の人というより、この国自体に歯磨きという文化がない。というより、水もそこそこ貴重だから、風呂はなく、水浴びも2日とか3日とかに1回の人が殆どだ、流石に商売している人は綺麗にしていると思いたいが、そういう保証もない。前世の記憶がある俺としては・・・、まぁ、無理だよね。決して潔癖症とかチキンというわけではない。多分、うん、そう。絶対に。
俺の気分とは裏腹に天気は快晴。そして、第一村人発見。例の青髪、ヴィアだ。何やら店の前で言い合いをしている。
「何でダメなの、きちんと返す。」
何か風俗店の入口で揉めてます。
「いや、そういうのは無理なんです。」
受付の人だろうか、禿頭の線の細そうな男が対応している。その後ろにごつい男が控えているが口を挟む様子はない。用心棒だろう。
「だから、約束は守るって言ってる。この身の血に賭けて。」
ヴィアが押す。
「血が何か知りませんけど、困ります」
受付が押し返す。
「分かった。じゃあ、お願いする。この通り」
ペコリと頭を下げるヴィア。
「頭を下げられても無理なものは無理です。普通に働きたいというなら歓迎します。今日のところは帰ってください。」
禿頭がそう言って、バタンと扉を閉めた。
「・・・」
ヴィアと目が合う。数秒の沈黙のあと、ふいっとそっぽを向いて隣の店に入ろうとする。
「ちょっ、ちょっ、何してんの君。」
慌てて止める。
「働こうかと。」
え?ここら辺の店で働くつもりなのか。何する店か分かってるのかな?いや、それ以前に。
「働く?」
「そう。労働、大事。理解した?」
「いや、分かるけど。」
「分かったら去って。私は忙しい。」
確かに止める理由はない。でも、この娘、少し震えてる。一度関わって、あの切羽詰まった声と縋るような瞳を知ってしまった身としては、これでいいのかという思いがある。それに、やっぱり似ている。
「ここら辺で揉めないでくれるか?」
考えていると、ぬっとドアから先ほどの用心棒が顔を出した。
「ああ、すいません。」
なぜ俺が謝ってるんだろう。
「とりあえず、酒場に行かない?」
ここで揉めるのは外聞が悪い。断られると思ったが、ヴィアは素直について来た。
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「前も言ったけど、相談くらいなら乗ってやれる。」
酒場につくと、俺はそう切り出した。話すだけでも楽になることはある。
「・・・・お金がいる。」
長い沈黙のあと、ヴィアがぽつりと言った。
「うん。」
やっぱり金か。ああいう店で働きたいタイプには見えないし。それに、ヴィアなら冒険者として稼ぎでもそんなに変わらない気がする。
「10億・・・」
「ゴフッ」
飲みかけの炭酸水を吹き出しそうになる。
「それはまた・・・ゴホッ」
「店で働く代わりに前借りしようとしてた。」
なるほど、それで断られてたのか。そりゃ10億なんて貸してくれない。バックレられたら終わりだし、違法店は逆に表向きはクリーンにしておきたい。前貸しなんて面倒なだけだ。
「10億なんて借りれるわけないだろ」
「借りようとしてたのは一億。」
ヴィアが首を振る。
「残りはギャンブルで稼ぐ。」
あ、これ完全にダメなやつだ。ギャンブルって"リザードマンレース"のことだろう。この街の名物。
「ふう・・・、何故そんな金が必要なんだ。」
ため息がでそうになったのを、慌てて呼吸に変える。全ての想定が甘すぎる。いや、それほど切羽詰まっているのか。
「言う必要はない。それで、あなたは貸せるの?」
首を振る。
俺が貸せるのは精々200万セルス。1億どころか10億なんて到底無理。
「分かった。じゃあ、もう行っていい?」
言外に「もう邪魔しないで」という含みがある。これ以上食い下がっても無駄か。
金か・・・前世でも苦労した。結局、今世でも金か・・・金、金、金。どこまで行っても苦しめられるのだろう。彼女の背中を見ながら、そんなことを考えていた。




