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【シリウス・ユリア編】星風の国物語~呼び笛の向こうへ~  作者: 月森みのり


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第四十四話 誓いの先


 ローランが剣を振る。

 シリウスが受け止める。

 腕に重い衝撃が走った。


 次いで、ローランはシリウスの肩を狙って剣を滑らせる。

 シリウスは剣を引いてかわした。


 シリウスは眉を寄せる。


「お前は本当に……いつも痛いところを突いてくるな」


「根性を叩き直すと言ったでしょう」


「ああ、そうだった……なぁ、っと」


 言い終える前に、横から短剣が突き出てくる。

 シリウスは身を翻してかわし、振り向きざまに剣を横へ払った。

 ユリアは短剣をシリウスの剣に沿わせ、刃を受け流しながら身を引いた。


 シリウスは数歩下がって、小さく息を吐く。

 剣を構え直し、ユリアへ視線を向けた。


「謝るとは言ったが……なんで怒っているのかは、教えてくれないのか」


「……」


 ユリアはすぐには答えなかった。

 冷たい風が吹き抜け、灰色マントの裾が揺れる。


 風が止んだ瞬間、ユリアが間合いを詰めた。

 短剣が迫る。

 シリウスは剣を当て、短剣を弾く。

 

 ユリアは再び短剣を振る。

 シリウスがそれを弾く。


 続けざまに細かく繰り返される攻防の中、ユリアが小さく呟いた。


「なんで呼んでくれなかったんですか」


「……」


 シリウスは口を結び、剣を振る。

 ユリアの腕が短剣ごと大きく弾かれた。

 勢いに押されるまま、ユリアはシリウスから離れる。


「……なんで、薬に逃げる前に、私を呼んでくれなかったんですか」


 ユリアは短剣を構え直した。

 ローランも少し離れた位置で剣を構え、シリウスを見ていた。


 シリウスは手元に視線を落とし、息を吐いた。

 力み過ぎていた手をわずかに緩める。

 それから、ユリアへ視線を戻した。


「お前はもう、俺がいなくても好きに駆けられるだろ」


「……意味が分かりません」


「お前を俺なんかのところに縛りたくない」


「は……?」


 ユリアの口から、息が漏れた。

 息は冷気に当たり、白く上っていく。


 ユリアは横目でローランを見た。

 ローランは小さく息を吐く。


「好きに怒っていい」


 ローランはそう言って、シリウスへ踏み込む。

 大きく振られた剣をシリウスが受け止める。

 ローランはそのまま剣を押し込む。

 足元の砂が音を立てた。


 ユリアはローランの背に足を掛け、上へ跳んだ。

 影が落ちる。

 空中で身を翻し、シリウスの背中へ飛びついた。


「……!!」


 シリウスは後ろへ下がり、ローランから離れる。

 次いで、ユリアは引きはがそうと片手を背中へ伸ばした。


 ユリアはシリウスの首元へ腕を回したまま、息を吸う。


「今度は、呼ばれなくても行くからっ!」

 

 耳元での叫びに、シリウスの肩が跳ねた。

 慌ててユリアの服を掴み、引きはがす。

 ユリアの身体が離れて、宙へ放り出される。

 身を翻して着地し、ユリアはシリウスを見上げた。


「うるさっ……こんな状況で耳元で叫ぶ奴があるか!心臓が口からまろび出るかと思ったじゃないか!」


 シリウスは片手を心臓のあたりに添え、声を荒げた。


「知りません!怒っていいと言われたので!」


「だからって、怒り方は考えろよ、危ないだろ!」


「だいたい、何なんですか、縛りたくないって、私がいつ縛られたんですか!」


「いや、だから、それは……!」


「陛下に倣って大人しくしてたのに!全然、意味が分からない!シリウス様のあんぽんたん!」


「あんぽんたんって、お前なぁ……!」


 二人は肩で息をした。

 ローランがその様子に目を細める。


「……終わったか?」


「はい。声を出したら、スッキリしました」


 ユリアはにこりと笑った。


「俺はもっとモヤモヤが増えたが」


 シリウスは肩を落とした。

 ローランが小さく息を吐き、剣を構え直す。


「あなたは、こちらで晴らす方が性に合うのでは」


 ローランの剣の切っ先が、シリウスへ向く。

 シリウスは顎を引き、再び剣を構える。


「……そうだな」


 ローランが踏み込んだ。

 振り下ろされた剣を、シリウスが受け止める。

 刃がぶつかり、乾いた音が響いた。


 ローランは剣を押し込み、シリウスの体勢を崩そうとする。

 シリウスは足を引いて力を逃がし、ローランの脇へ剣を振った。

 ローランが身をひねる。

 その背後から、短剣が迫った。


 シリウスは振り向きざまに剣を返し、ユリアの刃を弾く。

 ユリアは身を沈め、ローランの横をすり抜けるようにして距離を取った。


 間を置かず、ローランが再び斬り込む。

 シリウスは剣を合わせた。

 押し返そうとしたところで、横からユリアが踏み込んでくる。


 シリウスはユリアへ剣を振った。

 ユリアは身をひねってかわす。

 シリウスは追撃せず、ローランの剣を受け止めた。

 刃が滑り、火花が散る。


「……随分、甘いですね」


 ローランが低く言った。

 シリウスは答えない。

 ローランは剣を押し込み、シリウスの腕を弾くようにして間合いを詰めた。


「甘さだけでは、伝わりませんよ」


 シリウスはわずかに眉を寄せる。


 ローランの剣が肩口を狙う。

 シリウスは身を引いてかわしたが、反撃には出なかった。

 その隙へ、ユリアが踏み込む。


 短剣がシリウスの脇を狙った。

 シリウスは身をひねり、剣を振る。

 ユリアは短剣を斜めに構え、迫る剣を受け止める。

 激しい音が響いた。


 シリウスが刃を押し切った瞬間、ユリアの腕が大きく弾かれた。


「っ、!」


 短剣が手を離れ、砂の上を滑っていく。

 ユリアの身体も勢いに押され、後方へ飛ばされた。

 地面に肩が触れ、二度、三度と身体が転がる。


 顔をあげれば、遠くに短剣が見えた。

 刃が陽の光を白く反射している。


 シリウスは一瞬だけユリアを見て、すぐさまローランへ踏み込んだ。


「……っ、もう!馬鹿力!」


 ユリアは悔しげに唇を結び、短剣を拾いに走る。


 ローランは正面から打ち込まれた剣を受け止める。

 刃がぶつかり、足元で砂が跳ねた。


 シリウスは退かず、剣を押し込む。

 ローランは受け流し、返す刃でシリウスの腕を狙った。

 シリウスは身をひねってかわし、すぐさま剣を振り戻す。

 ローランが受ける。


 幾度も刃が交差した。

 ローランはシリウスの剣筋を読み、先回りするように攻撃を重ねる。

 シリウスはそれを受け、かわし、間合いを詰めた。


 ローランが踏み込む。

 鋭い一撃がシリウスの剣を押さえ込もうとした。


 シリウスは剣をわずかに傾けた。

 刃が滑る。

 ローランの剣が軌道を外れた瞬間、シリウスは柄を握り直し、全身の力を乗せて打ち払った。


 甲高い音が響いた。


 ローランの手から剣が離れ、宙を舞う。

 剣は弧を描いて砂地へ落ちた。

 シリウスの剣が、ローランの喉元で止まった。

 

 舞い上がっていた砂煙が、風に流されていく。


 短剣を拾って構え直したユリアは、二人を見たまま動きを止めた。

 ローランは落ちた剣へ目を向け、それからシリウスへ視線を戻した。

 

「……少しはマシになりましたね」


 シリウスは息を吐いた。


「厳しいな」


「優しくしてほしかったですか」


「……いや、そのくらいが丁度いい」


 やがて、闘技場に拍手が広がっていく。

 

 ユリアは目を伏せ、短刀をマントの下へ戻した。

 シリウス殿下は剣を下げ、鞘に納めた。



   ◇



 裁判長が判決を告げ、シリウスはグランセルの将軍領主に任命されることとなった。


 公開試験に続いてその場で行われた任命式。

 ステラの後ろに控えていたリアが進み出て、一振りの剣を差し出した。

 シリウスの愛剣だった。


 シリウスはそれを両手で受け取る。

 鞘を払うと、澄んだ音とともに、刀身が淡い日差しを映した。


 剣を高く掲げる。

 闘技場中の視線が集まる中、シリウスは大きく息を吸った。


「我が名は、シリウス」


 力強い声が、円形の闘技場に響き渡る。


「大星を司るこの名において、誓おう」


 剣先が、真っ直ぐ冬空を指す。


「――『剣をもって国境を護り、知をもって国を導き、信義をもって臣民へ応えることを』」


 騎士たちが、一斉に胸へ拳を当てた。

 鎧の触れ合う音が、波のように広がる。


 剣を収めて振り向くと、ステラがシリウスを見上げていた。


「おかえりなさい。兄様」


「ただいま、ステラ」


 シリウスは口元を緩めた。

 ステラも小さく笑った。

 それから、シリウスの後ろで控えていたユリアへ視線を向けた。


「……ユリアもですよ」


「……え?」


「おかえりを言わないと、お留守番は終わりません」


 ユリアは思わず黙り込んだ。

 目を瞬いて、シリウスを見る。

 シリウスはわずかに眉を上げた。


「……お、おかえりなさい……?」


 戸惑うように言うユリアに、シリウスは目を伏せて笑った。


「ああ、ただいま」


 闘技場の外壁に掲げられた旗が風に揺れた。

 一羽の鳥が飛び立ち、南の空へ消えていく。


お読みいただき、ありがとうございます。

この話を少しでも気に入っていただけたら、

感想やレビュー、リアクションなどをぜひお願いします!


次回もお楽しみに!!


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