第三十話 連覇
月日が流れ、再び武闘大会の日が訪れた。
会場には、朝から多くの観客が集まっていた。
観覧席は埋まり、試合場の周囲には騎士や貴族たちが並んでいる。
選手たちが入場する。
その中に、シリウスの姿があった。
姿を見つけた観客から、声が上がる。
「シリウス様だ!」
「去年の優勝者だ!」
歓声が広がっていく。
シリウスは足を止めず、観客席へ軽く手を上げた。
さらに大きな声が返ってくる。
その声に重なるように、ふと、城内で聞こえた囁きが浮かんだ。
『王子だから勝てたんだろう』
『一度勝ったくらいで、騎士気取りとはな』
『次も勝てるとは限るまい』
シリウスの手が、わずかに下がる。
試合場へ向かい、中央に立ち、剣を抜く。
朝の光を受け、刃が白く光った。
向かいには、今回の一回戦の相手がいる。
シリウスは剣を構えた。
審判が中央へ進み出る。
「両者、構え」
周囲のざわめきが静まっていく。
シリウスは相手から目を離さなかった。
「始め!」
声と同時に、踏み込む。
剣と剣がぶつかり、乾いた音が響いた。
相手の剣を受け流し、シリウスは一歩下がった。
すぐに踏み込む。
剣先が相手の肩口へ迫る。
相手は身をひねってかわし、そのまま横薙ぎに剣を振った。
シリウスは剣を立てて受ける。
刃がぶつかる。
相手がさらに踏み込んだ。
シリウスの肩がわずかに上がる。
剣を握る手に力がこもった。
次の一撃を受けたところで、踏み込みが遅れる。
相手の剣先が頬の横をかすめた。
観客席から、短いどよめきが起こる。
シリウスは後ろへ跳び、間合いを取った。
剣を構え直す。
相手の足元を見る。
一歩。
相手が踏み込んだ。
シリウスは半歩だけ横へずれる。
相手の剣が空を切った。
シリウスは懐へ入り、剣を打ち込む。
鍔がぶつかり、金属音が響いた。
シリウスは剣を引く。
相手の横薙ぎを受け、身を低くする。
続く一撃をかわし、踏み込む。
剣が相手の肩を捉えた。
相手が後ろへ下がる。
シリウスは追う。
数度の打ち合いの後、相手の剣がわずかに外へ流れた。
その隙へ踏み込む。
最後の一撃が、相手の剣を弾いた。
審判が手を上げる。
「勝者、シリウス・ゼフィール!」
歓声が一気に湧き上がった。
シリウスは剣を下ろし、向かいの相手へ一礼する。
相手も一礼を返した。
シリウスは歓声の中、剣を鞘へ戻そうとして、その手を止めた。
剣を握っていた右手が、わずかに震えていた。
「……」
シリウスは目を閉じる。
ゆっくりと息を吐いた。
もう一度、手を見る。
震えは止まっていた。
シリウスは剣を鞘へ収めた。
控え室へ向かう廊下を、シリウスは歩いていた。
廊下の窓から、会場の歓声が聞こえてくる。
角を曲がったところで、ユリアが立っていた。
「シリウス様」
「ユリア」
ユリアはシリウスの肩から腕、顔へと視線を巡らせた。
傷がないことを確かめると、小さく頷く。
「お怪我がなくて何よりです」
「ああ」
シリウスは短く答えた。
ユリアはそのまま隣へ並ぶ。
その後もシリウスは勝ち進んだ。
二回戦、準決勝と勝利を重ね、決勝を迎えた。
試合場の向かいに、最後の相手が立っている。
開始の合図とともに、二人が踏み込んだ。
剣がぶつかる。
相手の攻撃を受け、シリウスは一歩下がる。
続く一撃を横へかわし、剣を返す。
相手も退かない。
何度も刃が交わり、足音が試合場に響く。
シリウスは相手の剣を受け止めた。
鍔がぶつかる。
押し合うような形になり、シリウスは足を引く。
相手が追ってくる。
その一歩を見て、シリウスは横へ抜けた。
相手の剣が空を切る。
シリウスが振り返りざまに剣を打ち込んだ。
相手の剣が弾かれる。
乾いた金属音が響いた。
審判が二人の間へ入る。
「勝者、シリウス・ゼフィール!」
歓声が会場を包んだ。
シリウスは剣を下ろし、相手へ一礼する。
それから観客席へ目を向けた。
立ち上がった観客たちが、こちらへ向かって手を振っている。
シリウスはしばらくその光景を見ていた。
やがて剣を鞘へ収めた。
「……できた」
小さく呟く。
歓声は、まだ続いていた。
その夜。
騎士団本部の食堂には、いつもより多くの料理が並んでいた。
大きな鍋から湯気が上がり、焼いた肉やパンが長机の上に置かれている。
騎士たちの間を、酒の入った杯が行き交っていた。
「いやあ、今年も見事だったな」
「決勝の最後、見たか?あのかわし方」
「あれは速かった」
試合の話があちこちから聞こえてくる。
その中で、シリウスは皿の上の肉を切っていた。
「シリウス様」
向かいに座ったユリアが、じっとシリウスを見る。
「ん?」
「……浮かれませんね」
シリウスは手を止めた。
「……お前の方こそ、勉強はどうなんだ」
ユリアは少し考えるように首を傾けた。
そして、にこりと笑う。
「ヴィオラ卿には、シリウス様より覚えがいいと褒められています」
「……そーか」
シリウスは肩を落とした。
近くの騎士たちが笑った。
ユリアは気にする様子もなく、小さく切った肉を口に運んでいる。
「しっかし、伝令の仕事もしながら勉強なんて、凄いよな」
隣の騎士がユリアを見る。
「俺なら無理だな、秒で諦めてる」
「お前は、もう少し頑張れ」
「城で勉強してきたと思ったら、数時間後には隣国に向かってるし。よくやってるよ、ユリアは」
ユリアはもう一口、肉を口に運ぶ。
シリウスはその様子を横目に見た。
「……順調ならいいさ」
ユリアは顔を上げる。
肉を飲み込んでから、口元を緩ませた。
「はい、順調です」
その向こうでは、騎士たちが再び決勝の試合を振り返り、身振りを交えて盛り上がっていた。
「だから、あの場面はこうだって!」
「いや、あれは相手が一歩遅れたんだよ」
笑い声と杯の触れ合う音が、食堂に響いていた。
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