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【シリウス・ユリア編】星風の国物語~呼び笛の向こうへ~  作者: 月森みのり


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第二十七話 アステリアの道①


 昼前、ユリアを乗せた馬車が東方の街門をくぐる。


 門のそばでは、荷車が列を作っていた。

 係員が荷札を確認し、通行を許可している。街道沿いには倉庫や商店が並び、荷を積んだ馬車が次々と通り過ぎていく。


 門を抜けると、道の両側に商店や倉庫が続いていた。

 二階建ての建物には木製の看板が掲げられ、軒先には布地や籠、農具などが並んでいる。


 馬車が商会の支部の前で止まった。

 ユリアは鞄を肩に掛け、御者に帰りの時刻を伝えてから建物へ入った。

 受付で、伝令の仕事として預かった書類を手渡す。

 受け取りの署名を確認すると、控えを鞄へしまい、通りへ戻った。


 ユリアは市場へ向かった。

 荷車には木箱や麻袋が積まれ、それぞれに荷札がついていた。


 ユリアは荷札に記された産地と品名を確かめ、人の流れを避けて道の脇へ移動した。

 鞄からノートを取り出し、地名と品物を書き留める。


 北方産の金属工具。

 南方の村から届いた穀物。

 西方の海の向こうにある隣国産の染料。


 荷札の文字が擦れて読めないものは、無理に推測せず、その項目は空欄のままにした。


 市場を抜けた先に、街道に架かる石橋が見えた。

 橋の手前には荷馬車が一台停まっていた。

 御者が手綱を引き、前を行く荷車が渡り終えるのを待っている。


 橋は荷馬車一台が通れる幅しかなく、すれ違うことはできそうにない。

 欄干の一部に古い補修跡があったが、石の継ぎ目には目立った崩れは見られない。


 ユリアは地図を開き、橋の位置を確かめた。

 現在地に印をつけ、ノートには橋の幅と補修跡、石積みの状態を書き加える。


 橋を渡り、西へ折れる街道沿いを歩いていると、道端に小さな店があった

 店先には木桶や縄、荷車の車輪に使う部品が並んでいる。

 ユリアは店先に並んだ品を見てから、店主に尋ねた。


「この先の街道で、通りにくい場所はありますか」


「街道かい?」


 店主が手を止めて振り返った。


「西側なら、低いところがぬかるむよ。雨が続くと、荷馬車の車輪が沈んで動けなくなることもある」


「……どのあたりですか」


 店主は店の外へ出て、街道の先を指さした。


「この先をしばらく行ったところだ。道の両側が低くなってる」


「ありがとうございます」


 ユリアは店主が指さした方へ歩いた。

 しばらくすると、道の両側が低くなっている場所があった。


 ユリアは通りの脇でノートを開いた。


 ――店主からの聞き取り。雨天時はぬかるみやすく、荷馬車が立ち往生する場合がある。


 ――現地確認。街道の両側が低くなっている。


 書き終えると、ユリアはノートを閉じた。


 市場へ戻ると、街道沿いでは倉庫の前で荷を下ろしていた。

 荷車の車輪が石畳を鳴らし、街の奥へ消えていく。

 ユリアは次の目的地へ向かった。




 東方の街を出て数日後、ユリアは北へ向かう街道を進んでいた。


 山の稜線が近づくにつれ、道幅は次第に狭くなっていった。

 街道の両側には木々が増え、枝葉の間から差し込む光が、地面にまだらな影を落としている。

 道端には石が露出し、車輪の跡に沿って浅い溝が続いていた。


 馬車は緩やかな坂を上り、やがて山あいの街へ入った。


 通りには石造りの家が並び、軒先には厚手の布や革製品が吊るされていた。

 広場の一角では、荷車から灰色の鉱石が下ろされている。

 向かいの工房からは金属を打つ音が響き、開いた扉の向こうで、職人が赤く熱した鉄を槌で叩いていた。


 ユリアは商会の支部へ文書を届けたあと、街の外へ向かった。

 街道の状態を確認するため、馬車を預け、乗馬用の馬を借りる。

 鞍の留め具を確かめ、手綱を握ると、街の北側へ続く道を進んだ。


 街を離れると、家屋はまばらになった。

 山の斜面に沿って道が曲がり、場所によっては片側が岩壁、反対側が木々に覆われた斜面になっている。


 ユリアは馬を止め、道端に露出した岩と車輪の跡を見比べた。

 荷車が通れる幅は残っているが、路面には石が多い。


 しばらく進むと、街道の分岐に差しかかった。

 ユリアは地図を開く。

 そこには北へ続く街道が一本、記されているだけだった。

 しかし、分岐の脇には、森の中へ伸びる細い道があった。


 ユリアは馬を降り、手綱を近くの木へ結んだ。

 道の入口まで歩くと、踏み固められた土の上に蹄跡が残っている。

 ところどころに車輪の跡もあった。

 木々の間をのぞくと、道は緩やかに曲がりながら奥へ続いていた。


 ユリアは地図を取り出し、分岐の入口の位置に小さな印をつける。


「嬢ちゃん、どうかしたのかい?」


 声をかけられ、ユリアは振り返った。

 木こりらしい男が、肩に斧を担いで立っていた。

 背負った籠には、薪がいくつか入っている。


「この道は、どこへ続いているんですか?」


「山の向こうの村だ。街道を通るより近い」


「荷馬車は通れますか?」


 男は森の奥へ目を向け、道の入口から少し先を指した。


「難しいな。急な坂があって、雨のあとは滑りやすい。慣れていない者は、街道を使ったほうがいい」


 ユリアは指された方向を確かめた。

 木々に遮られ、坂の様子までは見えない。


「ありがとうございます」


 礼を言って、男が街道を歩いていくのを見送る。


 ユリアはノートを開き、道の幅と地面の状態、残された蹄跡や車輪の跡を書き留めた。

 木こりから聞いた行き先と、雨天時の坂の状態は、別の項目に記した。


 ノートと地図を鞄にしまい、手綱を解く。

 鞍にまたがると、ユリアは分岐を一度だけ振り返った。

 馬を街道へ向ける。


お読みいただき、ありがとうございます。

この話を少しでも気に入っていただけたら、

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次回もお楽しみに!!


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