↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【シリウス・ユリア編】星風の国物語~呼び笛の向こうへ~  作者: 月森みのり


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
25/47

第二十五話 祝勝


 武闘大会が終わった夜。


 騎士団本部の食堂には、いつもより多くの料理が並んでいた。

 大きな鍋から湯気が上がり、焼いた肉やパンが長机の上に並べられている。

 騎士たちは手に酒の入った杯を持ち、笑い声を上げていた。


「いやぁ、まさか副団長まで倒すとは!」


「最後の一撃、見たか?」


「あれは見事だった!」


 シリウスは騎士たちに囲まれながら、手にした杯を眺めていた。


「シリウス様、もう一杯どうです?」


「いや、十分だ」


「そう言わずに!」


 別の騎士が肩を叩く。

 シリウスの身体がわずかに揺れた。


「勘弁してくれよ」


 笑い声が上がる。

 シリウスは杯を持ったまま、騎士たちを見回した。


 顔を赤くした者。

 料理を取り分けている者。

 試合の場面を身振りを交えて話している者。

 誰もが、自分のことのように喜んでいた。


 シリウスは小さく笑って、息を吐いた。

 隣に座るローランが口を開いた。


「シリウス様」


「ん?」


 ローランは杯へ手を伸ばす。


「……あまり浮かれませんね」


「そうか?」


「ええ。もう少し、素直に喜んでも良いのでは?」


 シリウスは周囲に視線を向けた。

 また誰かが今日の試合について話し始めている。

 笑い声が食堂に響いた。


「……いや、まぁ……こうも喜ばれるとな」


 シリウスは肩を竦めた。

 ローランが眉を上げ、小さく笑った。


「それに……大事なのは、これからだろ」


 シリウスは手元の杯へ目を落とした。


「一度だけでは、偶然と思われかねん」


 騒がしい食堂に、低められた声が落ちる。

 ローランはシリウスを見た。

 やがて、小さく頷く。


「……そうですね」


 シリウスは再び騎士たちへ視線を向けた。

 食堂には、まだ笑い声が響いている。



   ◇



 数日後。


 王城の広間には、昼の光が差し込んでいた。

 大きな窓の向こうには、初秋の薄い青空が広がっている。

 壁際には給仕の者たちが並び、銀の盆に葡萄酒や果実酒を載せていた。


 その中央に、シリウスがいた。


「先日の大会、見事な勝利でしたな」


 年配の貴族が杯を掲げる。


「ああ、ありがとう」


 シリウスも水の入った杯を軽く上げた。


「決勝戦は、私も拝見しておりました。あの副団長を相手に、よく勝たれましたな」


「騎士団で鍛えてもらったおかげだよ」


「ご謙遜を。あれほどの剣技、そう簡単に身につくものではありません」


 貴族が給仕から葡萄酒の杯を受け取る。


「どうです。シリウス様も一杯」


 差し出された杯へ、シリウスは視線を落とした。

 それから、首を横に振る。


「悪い。酒は控えてるんだ」


「ほう?」


「こっちで十分だ」


 シリウスは手元の杯をわずかに持ち上げた。

 貴族は一瞬目を丸くしたが、すぐに笑みを浮かべた。


「なるほど、己を律しておられるのですな」


「ああ。体が資本だからな」


 シリウスはそれ以上説明せず、杯に口をつけた。

 少し離れたところでは、別の貴族たちがこちらを窺っている。

 やがて、彼らもシリウスへ歩み寄った。


「シリウス様」


「先日はお見事でした」


「次の大会にも出られるのでしょうか?」


 次々と声が掛かる。


「さあ、まだ決めてないな」


 シリウスは一人ずつ顔を見て答えていく。

 話が一区切りつけば軽く頭を下げ、次の相手へ向き直る。


 その様子を、広間の端からセレナが見ていた。

 淡い色のドレスの袖口に指を添え、手にした杯を傾ける。


 シリウスの周囲には、まだ人が集まっている。

 大会前とは、明らかに違っていた。


「今日はシリウス様のことで持ちきりですね」

 隣から声がした。

 振り向くと、ルシアンが立っていた。

 手には葡萄酒の杯がある。


「……そうね」


 セレナは再びシリウスへ視線を戻した。

 ちょうど一人の貴族が話を終え、シリウスが軽く頭を下げているところだった。


 その横顔は、普段と変わらない。

 貴族が一人離れると、すぐに別の者が近づいてきた。

 シリウスは顔を上げ、笑みを浮かべる。


 セレナの指が、杯の縁で止まった。


「なにか、気掛かりなことでも?」


 ルシアンの問いに、すぐには答えなかった。

 広間の中央では、シリウスが新たな貴族へ向き直っている。


「……少し心配なだけよ」


 セレナはシリウスの姿を見たまま言った。


「気負いすぎてはいないかしらと思ってね」


 ルシアンは黙ってシリウスを見る。

 しばらくして、窓際へ視線を移した。

 そこでは、護衛のユリアが広間を見渡していた。


 広間へ入ってくる者。

 シリウスの近くを通る者。

 給仕の動き。


 ユリアの視線が、静かにそれらを追っていた。


「……それでも、彼女が側におりますよ」


 ルシアンの声に、セレナもユリアへ目を向ける。


 ユリアが顔を上げ、シリウスを見る。

 シリウスが貴族の一人と話しているのを確認すると、また周囲へ視線を戻した。


 セレナの指先から、わずかに力が抜ける。


「……そうね」


 口元に、小さな笑みが浮かんだ。


お読みいただき、ありがとうございます。

この話を少しでも気に入っていただけたら、

感想やレビュー、リアクションなどをぜひお願いします!


次回もお楽しみに!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。