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【シリウス・ユリア編】星風の国物語~呼び笛の向こうへ~  作者: 月森みのり


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第二十話 勉強仲間


 王城の図書室。

 窓から差し込む午後の光が、長机の上を細く照らしていた。


 ユリアは椅子に座り、一冊の本を開いている。

 表紙には、王国法に関する題名が記されていた。

 ヴィオラから渡されたものだった。


 ユリアは指で行を追いながら、ゆっくりとページをめくる。

 しばらくして、眉間にわずかに皺が寄った。


 もう一度、前のページへ戻る。

 同じ箇所を読み直す。

 ページをめくる。

 また戻る。


 やがてユリアの指が止まった。

 視線だけが、長い文章の上を行き来する。


 しばらくすると、本から顔を上げた。

 天井を見上げる。

 それから、ゆっくりと本を閉じた。


「……読み聞かせ……」


 小さく呟く。

 本の表紙へ目を落とす。


「……団長とか、やってくれるかな……」


 ユリアは本を抱え、椅子から立ち上がった。

 机の横を回り、図書室を出る。

 廊下へ出ると、本を胸元へ抱え直した。


 王城の廊下には、昼下がりの静かな空気が流れている。

 窓の外では、風に揺れた木々の葉が光を返していた。

 ユリアは廊下を歩いていく。


 角を曲がったところで、開け放たれた扉が目に入った。

 扉の向こうには、高い書棚が並んでいる。


 書庫のようだった。

 廊下から中を覗くと、書棚の間に小さな台が見えた。

 その上に、小さな少女が立っている。

 淡い銀髪が、書棚の陰から覗いていた。


 ユリアは足を止めた。

 少女は背伸びをしながら、上段の本へ手を伸ばしている。

 指先が、本の背に触れる。

 けれど、うまく掴めない。


 一度手を下ろす。

 もう一度、台の上で身体を伸ばす。

 それでも届かなかった。


「……姫様」


 ユリアが声を掛けると、少女が振り返った。

 青灰色の瞳が、ユリアを見る。


「あなたは……」


 ステラは視線をわずかに泳がせる。


「この前、シリウス兄様と一緒にいた……」


「……ユリア・レインです」


 ユリアは書庫へ入り、台のそばまで歩いた。


「この本ですか?」


 ユリアが手を伸ばす。

 ステラが届かなかった本を抜き取り、ステラへ差し出す。

 ステラが両手で受け取った。


「ありがとうございます」


 ステラは本を胸元へ抱える。

 それから、ユリアの腕にある本へ視線を移す。


「あなたも、お勉強ですか?」


「……はい」


 ユリアは抱えていた本を少し持ち上げた。

 ステラが表紙を覗き込む。


「難しそうな本ですね」


「……文字の多い本は苦手です……」


 ステラが瞬きをする。

 しばらくユリアの本を見ていたが、やがて自分の本へ視線を落とした。


「私も、まだ文字の多い本はあまり読めません……同じですね」


 そう言って、ステラは小さく笑った。


「一緒に読み聞かせてもらいましょう」


「……えっ?」


 ステラがユリアの手を取る。


「こっちです」


 そのまま歩き出した。

 ユリアは引かれた手に合わせて歩き出す。


 書庫を出て、長い廊下を二人で歩いていく。

 ステラはユリアの手を握ったままだった。


 しばらくして、王族の居住区へ続く廊下に入る。

 窓から差し込む光が、床の上に長く伸びていた。


 廊下の先には、衛兵が二人立っている。

 ステラの姿を認めると、二人とも静かに頭を下げた。

 ステラも小さく頷く。


 やがて、一つの扉の前で足を止めた。


「ここです」


 ステラがユリアの手を離し、扉を開ける。


 大きな窓から柔らかな光が入り、壁際には本棚が並んでいる。

 小さな机の上には、数冊の本と、色鉛筆が入った箱が置かれていた。

 窓際には、淡い色の布を掛けた椅子が二つ。


 華美な飾りは少ない部屋だった。

 その奥に、一人の青年がいた。

 机の前に立ち、書類を整理している。


 扉が開いた音に気づき、青年が振り返った。


「おや」


 ステラの隣に立つユリアを見る。


「お客様ですか?」


 ステラがユリアを見上げる。


「シリウス兄様の側にいる、騎士の方です」


「シリウス様の……。姫様付きの侍従長を務めております、エリオット・ハーヴェイです」


「……伝令部所属、ユリア・レインです」


 ステラはユリアの抱えている本を見る。

 そして、青年へ顔を向けた。


「エリオット。ユリアの本の、読み聞かせをお願いします」


「読み聞かせ?」


 エリオットの視線が、ユリアの腕の中へ移る。

 表紙に記された題名を確認する。


「……お勉強仲間でございましたか」


 エリオットが小さく笑う。


「まずはお茶をお入れしましょう」


「はい」


 ステラが頷いた。


「ユリア、こちらへ」


 ステラが椅子を示した。

 ユリアは小さく頷き、椅子へ向かった。

 ユリアが腰を下ろすと、ステラも隣の椅子に座った。


 エリオットは一度二人を見てから、部屋の奥へ向かった。

 ほどなくして、茶器の触れ合う小さな音が聞こえてくる。


 エリオットが盆を手に戻ってきた。

 机の上へ茶器を並べる。

 白い湯気が、細く立ち上った。


「どうぞ」


「ありがとうございます」


 ステラがカップへ手を伸ばす。

 ユリアも両手でカップを持った。

 エリオットは向かいの椅子へ腰を下ろした。


「では、拝見しましょうか」


 ユリアが法律書を差し出す。

 エリオットは表紙を確認し、ページを開いた。


「法律書ですか」


「難しいやつですか?」


 ステラが本を覗き込む。


「いいえ。初心者向けのものですね。姫様にも丁度良いでしょう」


「そうですか」


 ステラが頷く。

 ユリアは本を見つめた。

 さきほどまで一人で眺めていた文字が、今度は目の前に並んでいる。


「……よろしく、お願いします」


「はい」


 エリオットが微笑む。

 そして、最初の頁へ視線を落とした。



お読みいただき、ありがとうございます。

この話を少しでも気に入っていただけたら、

感想やレビュー、リアクションなどをぜひお願いします!


次回もお楽しみに!!


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