鈴蘭のご対面
花壇の向こうの校舎へは向かわず、校門を入って右手へそのまま進むと、同じく白いペンキに塗られた木造の講堂がある。校舎と同じ木造で白いペンキに塗られ、いくつもの窓にステンドグラスがはめ込まれている。
他の女学生たちと同様に、すずりはそちらの方向へ向かって歩いていく。背中に背負った風呂敷包みはずしりと重く、角を曲がる際に身体の向きを変えると反対側へと倒れそうになるから、ブーツのかかとを踏みしめてこらえた。
花夢女学校では制服として袴を身に着けるのが決まりで、他の女学生も色とりどりのそれを身に着けている。裾の乱れを気にすることなく踏ん張ることができ、重宝しそうだとすずりは思った。
講堂を通り過ぎると、香ばしい、良い匂いがただよってきた。戸と同じ大きさのガラスがはめ込まれているその建物は、どうやら食堂のようである。ありがたいことにこの女学校では、無料で三食食事をすることができ、また授業の一環として西洋料理を食べることもあるそうだ。
すずりはまだ、西洋料理を口にしたことがない。ビフテキ、オムレット、コロッケー、アイスクリンなどがあることは知識として知っていた。それらを口にすることができるかもしれないと想像するだけで、すずりの細い喉がごくんと鳴った。
食堂もさらに通り過ぎ、落ち葉を踏みしめて砂利道を行けば「花夢女子寮」の看板が見えてきた。学校名そのままじゃないかと思わなくもないが、わかりやすいことこの上ない。
すずりよりも先に玄関をくぐった女学生が、こちらを向いて腰掛けて、編み上げブーツを脱いでいる。部屋の名前の木札を見つけるとその棚にブーツを置き、足袋のままで廊下を歩いていく。
(ブーツが脱げるのはありがたいことだわ)
履き慣れないすずりにとって、外を歩くには力強い味方となるけれども、やはり窮屈なのには違いなかった。背中の荷物に仰向けに転がりそうになりながらも、なんとか腰を下ろしてブーツを脱ぎ、すずりは懐に忍ばせた紙を取り出す。
「たしか、そう、鈴蘭だったわ」
寄宿舎ですずりに割り当てられたのは、鈴蘭という名のついた部屋だった。基本的には、女学生ふたりでひと部屋の相部屋と聞いている。
(いよいよ、ご対面だわ)
わずかに速くなった鼓動をおさえるべく、すずりは着物の胸元を手のひらでおさえる。そして深呼吸をし、壁に貼られている、部屋の位置が示された紙を眺める。鈴蘭の部屋は、一階の突き当たり、いちばん奥の部屋だった。
ブーツを履いていたせいで、ほかほかと湯気が立ちそうにあたたまった足袋で床を踏みしめながら、自分の部屋へと向かう。同じような西洋式のドアをいくつも通り過ぎ、ドアの上に「鈴蘭」の札が掲げられた部屋の前でもう一度、深呼吸した。
(どんなご令嬢かしら)
すずりは両手で眼鏡の端を持ってぴしりとまっすぐに揃えた後、鈴蘭の部屋のドアをノックした。




