薙刀がしたい小鳥たち
「さ、すずりさん。参りましょう」
体操の授業の終わりを告げる鐘が鳴ると、さち子はいそいそと立ち上がった。女学生たちは見学のみだったが、それでも稽古着を身につけて集合している。
一度寄宿舎へ戻って着替えをし、昼食を済ませてから授業へ戻るよう、瓜生から指示が出た。威厳を保ってはいたが、それでも声に動揺が滲み出ていたようにすずりは感じ取っていた。
演武の最中に薙刀を落としたことが、影響しているのだろうと推測する。偲の実力はそれほどまでなのだろうかと感心もするが、体操教師の瓜生からすれば矜持を傷つけられたことになろうから、それ以上そのことについて考えるのはやめにした。
いつの間にか、さち子との間に距離ができていたからである。いつになく早い足取りのさち子を追いかけ隣に並べば、ややすわった目でひたすら進む方向を見据えており、右手は鉛筆を握ったような形で動き続けていた。
(描いているんだわ)
先ほどの偲の演武を見て、触発されたのだろう。そして、目と頭に刻んだ記憶を少しでも保っておきたいに違いない。書物を読み始めるとその世界に入り込んでしまうすずりには、今のさち子に話しかけても無駄になることを理解していた。前方を見ているようでおそらく目に入っていないさち子が、何かに激突しないよう気を配るのが関の山である。
さち子の速度に合わせてやや小走りに連れ添いながら歩いていくと、食堂の前に人だかりができていた。今日はクラス分けの貼り紙のようなものはないのだが、入学式の日に麗子が取り囲まれていたあたりで、別の人物が後頭部に色とりどりのリボンを飾った女学生たちに取り囲まれていた。
取り巻きの中央にいるのは、麗子ではなく偲だった。
「お見事でしたわ、偲さま」
「本当に。一部始終が流れるように美しく、繰り出される技は風のように素早く力強くて!」
「わたくし、幼い頃に少しだけ薙刀のお稽古をした経験がありますの。本日の演武を拝見して、また始めてみたくなりましたわ」
「どうかしら。偲さまのご指導のもと、薙刀愛好会を発足するのは」
「名案ですわね!授業でなぎなた体操をするくらいですもの。学校側も許可してくださるのではなくて?」
取り囲んだ女学生たちが、春の小鳥がさえずるように賑やかにそんなことをまくしたてるが、中央の偲は困ったように困惑の表情を浮かべている。そして、取り巻きを超えたあちら側に、助けを求めるように視線が動いた後──。偲の表情が一変した。
「お嬢様!」
取り巻きの女学生たちを押しのけるようにして、偲がこちらへと向かってくる。すずりがその視線の先を振り返れば──。牡丹色のリボンが飾られた巻き髪が、はらりと乱れ、麗子がその場に崩れ落ちた。




