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目覚めのおむすび

 まぶしい。すずりは、閉じたまぶたにねじ込むようにして入り込んでくる橙色の光をうっとうしく思い、眉をひそめた。そのまぶしさを避けるべく、首を動かしてみるが、完全に避けるべくもない。


 ならば。ごろりと寝返りを打って、そのまぶしい光の差し込むほうへ背中を向けた。まぶしさは軽減されたが、すんと吸い込んだ畳の香りにはた、となった。


 数日前に花夢女学校へとやってきて、寄宿舎生活が始まった。大江の家では畳の部屋へ布団を敷いて寝ていたが、ここはベッドだ。ぱりっとのりのきいた少し硬めの枕カバーが、すずりの頬を受け止めてくれている、はずなのだ。


(畳?)


 違和感を覚えたすずりがぱちりとまぶたを開くと、目の前には抽斗があった。すずりとさち子の着物がしまってある抽斗である。少し視線を上にずらせば、重ねた行李があり、抽斗の上には勉強机に置ききれないすずりの書物が並んでいた、が。


 そのすべてが歪んで見えるのは寝起きだからというだけではなく──、すずりは眼鏡をかけていなかった。そして、突っ伏して頬についたのだろう畳の痕を指で確かめながら、状況を察する。


 小上がりで眠ってしまったようだ。すずりは身体にかけられた毛布とともに、がばりと起き上がる。疲れが残っており、膝のあたりがミシミシと痛んだ。


 ベッドと勉強机のある、板張りの床の部屋を眺めれば、やわらかなガーゼのカーテンでは覆いきれない、見事な夕日が沈んでいくところだった。そのまぶしさを手をかざして遮りながら、すずりはぼんやりと記憶をたどる。


(……入学式を終えて、ライスカレーをいただいて、クラス分けの貼り紙を見たんだったわ。その隙間に差し込まれていた和歌を持ち帰って、わたしはここへ来てはじめて、あれをやった)


 と、そこですずりはハッとなる。すずりが手を伸ばしてあたりを探れば、荷物置きの台の上に眼鏡が置かれていた。顔の半分を覆う大きさのそれをすちゃりとかければ、同じ台の上にはきれいに水洗いされ、水滴ひとつなく拭われた硯があった。


 勉強机の上には、朱色の毛氈と他の道具類が置かれている。そして、すずりのベッドの上には、くるくると巻かれた巻き紙があった。


 その巻き紙を見て、すずりは最中のさち子がはじめてにしては見事すぎる手助けをしてくれたはずだと確信する。書き殴っている最中の記憶は曖昧だが、うまくやり遂げられたか否かの感触は、なんとなく身体に残るからだ。


(その、さち子さんはどこへ行ったのかしら)


 寝乱れた髪を手ぐしで整え、あくびをこぼしながらすずりは考える。ぐう、と腹の虫がひもじさを主張した。そろそろ夕食の時間だ。


 例の儀式を終えると必ず寝落ちしてしまい、いつ目覚めるかわからない。さち子はしびれを切らして、先に食堂へと夕食をとりにひとり向かったのかもしれなかった。


(わたしも夕食をいただきに行こうかしら)


 よいしょと立ち上がり、かけられていた毛布をきちんと畳む。巻き紙を避けてベッドの上へ置き、部屋を出るため戸のほうへと向かおうとしていた時だった。


 かちゃりと慎重な音を立てて、ドアが開く。顔をのぞかせたのは、他ならぬさち子だった。


「あら、お目覚めですわね!ノックもせずに失礼しました」


 さち子は満面の笑みでドアを閉め、すずりのほうへと向かってくると、ずいと手に持っていた盆を差し出した。


「このまま目覚めなければ、夜中にひとりひもじい思いをされるのではないかと思って、食堂でお願いして来ましたのよ。夕食の準備の真っ最中で、迷惑がられましたけれども」


 そう言うとさち子は、かかっていた布巾を取り払った。盆の上には、米粒の輝くふたつのおむすびにたくあんが添えられ、ほうじ茶が入っているはずの、例の急須と湯呑みが載せられていた。

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