桜料紙の書き付け
おなかもいっぱい、ライスカレーの香辛料でほかほかになったすずりとさち子が食堂を出ると、クラス分けが貼られた看板の前には、数えるほどの女学生の姿しかなかった。
よって、ゆったりのんびりと自分の名前を探すことができるわけだが。花嫁女学校一期生は、先ほどの入学式で講堂に集いし四十八名。それをイ・ロ・ハの三つの教室に分けるだけである。
イから順番に、名前を指でたどって探していくが、ふたりがそれぞれ自分の名前を見つけたのは結局のところ。
「ハ組だわ」
「ご一緒ですわね、すずりさん!」
手を叩いて喜ぶさち子の様子に、すずりはきょとんとする。情報通のさち子と相部屋なのは、ぼんやりとしていると言われ続けたすずりにとっては、ありがたいことではあったけれど、さち子にとって、自分とクラスが同じであることでどんな良いことがあるのだろうと思ってしまう。
思いそのままについ首を傾げてしまうが、両の手のひらをこちらに向けて差し出され、いつまでも待っているところを見ると、すずりにも同じことをしろという意図らしかった。
すずりがおそるおそるさち子の手のひらに自分のそれを押し当てれば、さち子はうれしそうに微笑む。そして、口角は上げたまますいっと目元を鋭くすると、改めてクラス分けの張り紙のほうへ顔を向けた。
「公爵から男爵までひととおり、もと摂関家もあれば大大名の姫君もいる。妃候補だけでひとクラスはできてしまいそうじゃなくて?」
さち子の言葉に、すずりはやはり見ているものが違うのだなと思う。たしかに公式記録に残るような、名門の令嬢の名が記されていることに気づきはしたが、むしろすずりが興味を持ったのは、大江の家のように、特殊な技能や知識を持つ元半家の名が混じっていることだった。
妃として選ばれた令嬢に付き従う、女官候補を育てるというのも本気であることがうかがえる。代々、何かしらの専門家としてつかえてきた家の令嬢たちが、どのような女学生になっているのか、すずりが妄想を膨らませていると。
「あら、これは何かしら」
さち子の声に、すずりは妄想を止める。指先で示されたハ組の張り紙の右下のところ、画鋲で留められた板との間にある空間に、何かが挟み込まれていた。
臆することなくさち子がそれをすいと抜き出してしまう。半分にたたまれたそれは、金箔が散らされた桜模様の美しい料紙だった。
「誰がこんなところに」
言いながらさち子は、半分に折り畳まれたそれを開いて広げてしまう。そこには、流麗な筆使いの墨文字で、次のような和歌が書き付けてあった。
袴紐 結びて踏むは 花だたみ 門の向こうに そびゆ学舎




