ライスカレー時々らっきょう甘酢漬け
クラス分けは気になる。気になるけれども、あまりにも混んでいるし、その付近で加賀麗子を取り囲んでいる女学生からただよう雰囲気もあまり気が合わなそうだ。
それはさち子も同じと見えた。というわけで、あたりさわりのない「ごきげんよう」を繰り返しながら、まっすぐ食堂へと向かう。ライスカレーの匂いをたどって食堂の開け放たれたドアを覗き込めば、目が覚めるほどの香辛料の香りが濃厚に飛び込んできた。
すずりが動揺していたのが時差になったようで、一輪の雛菊を手に、テーブルを後にする女学生たちとすれ違った。さち子とふたりなら、すぐに座れそうである。
どの女学生の手にも渡った雛菊であるから、席取りの目印にはならないけれども、盆を持つのに邪魔になりそうだったので、さち子とすずりは幸運にもちょうど空いた窓側の席へとそれぞれの花を置き、盆の積まれた入り口付近へとまた戻った。
白い平皿に、なだらかな山のように盛り付けられた雑穀米。ぷりっとしたらっきょうと醤油色の福神漬けが添えられている。背が低く、口が広めの水差しのような滑らかな流線形の銀の器には、すずりがはじめて目にするカレールウが波打っていた。女学生の顔が映るほど大きなスプーンを取ると、いつもは温かいお茶の入った急須が汗をかいていた。
雛菊は誰にも盗まれることなく、きちんとふたりの席の番をしていた。盆を置き、ふたつのコップに水を注ぎ、はやる気持ちをおさえて手のひらを合わせる。
「いただきます」
「いただきます」
決まり文句をそう口にすると、大きなスプーンを手に取り、とぷりとカレールウの中へ差し込んだ。
「わたくし、ライスカレーは久しぶりですの」
「わたしははじめてです」
洋食流行りに乗り切れていないすずりとさち子は、おっかなびっくりカレールウをごはんへとかける。そのスプーンでそのまま、まるで小さなライスカレーをもうひとつ作るようにして、口に運んだ。
「ん〜!」
「おいしい」
食堂の外までただよっていた香辛料の匂いは、実際に口の中へ運ぶといっそう香ばしさが増した。だが、香りのわりには辛くはない。カレールウは出汁がきいており、ほのかに醤油の味も感じる。
もぐもぐごっくんと飲み込むと、スプーンでつるりとしたらっきょうを運び、シャリシャリと噛み砕いた。甘酢が口の中をさっぱりとさせて、クセになる。
「ライスカレーをいただいたと、家に手紙を書きます」
「それは良いわね。わたくしが絵を添えましょうか」
香辛料のせいか、鼻の頭にかいた汗を手のひらであおぎながら、さち子とすずりはルウをかけ、スプーンの上にミニライスカレーをつくり、たまにらっきょうや福神漬けをぽりぽりするを繰り返して、はじめてのライスカレーを平らげたのだった。
ふたりの皿がからっぽになり、はじめての刺激を受けた舌を冷たい水で癒す頃には、クラス分けの掲示板の人だかりも、麗子の取り巻き、そして麗子本人も、食堂の前から姿を消していた。




