番外編 他種族寮の掃除当番の悪意
ジュリアスたちの不正は表沙汰にはならなかった。だが、その事実は匿名という形で、彼らの実家へと「報告」として届けられた。
親たちの怒りは凄まじく、彼らから「帰る場所」を奪い去った。
「……何で、俺たちがこんなことを……」
泥に汚れた床を這い、魔法を使わぬ「手」で雑巾を絞る。新入生4位としての誇りは、実家からの絶縁状と共に砕け散っていた。
試合の敗北という代償は、あまりに重い罰となって彼らに降り注いでいたのだ。
だが、その時だった。
「おぉ、そこまで綺麗にしてくれたのか! 助かるよ、ありがとう」
振り返れば、巨大なリザードマンが相好を崩して笑っていた。彼はジュリアスの手から重いバケツをひょいと持ち上げ、「これ、水場まで運んどくよ」と、当然のように手を貸す。
「あ……」
さらに、重いゴミ袋を引きずる仲間の元には、エルフの女子生徒が駆け寄っていた。
「これ、一人じゃ大変でしょ? 一緒に持とう。今日はいい天気だね」
屈辱を予想していた。蔑まれる覚悟はできていた。
だが、そこにいたのは、自分たちを「人間」として、一人の「学友」として扱う、裏表のない善意だけだった。
彼らが差し出すその「善意」が、ジュリアスにとっては、自分がかつて抱いていた誇りを、生きたまま皮を剥ぐような「嘲笑」にしか聞こえないのだ。
「……何のつもりだ。こんな……こんな家畜ごときが、俺を憐れむというのか?」
バケツを受け取ろうとするリザードマンの手を、ジュリアスは力任せに振り払った。握りしめた雑巾からは汚泥が滴り、その瞳には、救いようのない傲慢さと、それ以上に深い「人間としての敗北感」が渦巻いている。
喉の奥で、小さく毒づく。
(……見てろよ。この屈辱のすべてを、お前たちの血で贖わせてやる)
ジュリアスは従順なフリをして、内心で冷ややかに笑っていた。
沈みゆく夕日が、学園を禍々しい赤色に染め上げていく。
他種族たちは、彼らが「更生した」と信じて疑わない。だが実際には、ジュリアスたちは以前にも増して深い、ドロドロとした憎しみの毒をその身に宿していたのだ。




