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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
8章 勇者と勇者

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術式・・・何故か忙しい俺

「やっぱすげぇな賢者様は。もはや前衛なんてやらなくていいんじゃねぇか?」


任命式の後、寮に戻る道すがら、ロロが呆れたように、けれどどこか誇らしげに笑った。


「私も同席したかったです。補助魔法なら世界一と謳われるイリノイさんを、あんな一瞬で打ち負かすなんて」

今回は留守番だったヴィニーが、目を輝かせて詰め寄ってくる。


「……まぁ、綺麗な術式だったからな。ちょこっと『補助』してやったら、ああなっただけだ」


俺は努めて平静を装い、短く説明する。だが、その「ちょこっと」が引き起こした余波は、俺の想像を遥かに超えていた。

指を鳴らした瞬間に国中に広がったあの高揚感。今や国はその話題で持ちきりらしい。

任命式の出来事でイリノイ様の加護だ。と言われていたらしいが・・・


「到底、真似なんてできんよ。人の術式に干渉するなんて、理屈がわからん。そもそも『術式』ってのは、見えるもんじゃないんだからな」


ロロがため息をつく。

そう。本来『術式』とは、魔法の根源を形作るためのイメージであり、才能そのものだ。魔導師が一生をかけて磨き上げ、肥大化させていく「感覚」の結晶。それを客観的に観測し、さらに他人の設計図を上書きするなど、普通の人間には一回の人生では辿り着けない領域。

そこに踏み込めるのは、俺やマティアスのような、魔法という深淵に魂を焼かれた存在だけなのだ。


「魔王の力の源が魔力だってんなら、俺は大人しくこのハリボテの剣を振るしかないからな」


魔王はこの世界を「魔法」に偏らせることで支配しようとした。

俺が剣士という道を選んだのは、図らずもその思惑からたまたま外れていた。


「……結局、魔法で斬ってるけどな」


「そこは仕方ないだろ、前衛職が増えればまた変わるさ」


ロロの不服そうなツッコミを受け流していると、扉が控えめにノックされた。


「誰ですかね、こんな時間に」


ヴィニーが扉を開けると、そこには驚くべき人物が立っていた。


「……本日は、とんだ無礼を。申し訳ございませんでした」


扉が開くや否や、深く頭を下げたのはイリノイだった。


「……入るか?」


促すと、彼女は少し躊躇いながらも部屋へ足を踏み入れた。


「いえ、謝罪だけでもと思い……。アラバマ様やガル様がお認めになられた方。私も、アラバマ様の遺言通り、貴方を信用します」


それだけを言い残し、彼女は嵐のように去っていった。


「え? なんかキツい女性だって噂でしたけど、めちゃくちゃ素敵な人じゃないですか」


呆然と見送ったヴィニーが言う。

確かに、今日の彼女は違った。正装を解き、緩い服装に髪も束ねていないその姿は、昼間の威厳が嘘のように、歳相応の若さと可愛らしさを感じさせた。



――だが。そんな淡い感動は、数日後に粉々に砕け散ることになる。


「ですから! この報告書は何なんですかッ!?」

数日後のマスター会議。王宮の一室に、イリノイの鋭い叱責が響き渡った。


「……そう言われましても」

俺は内心で冷や汗を流しながら、机に叩きつけられた紙切れを眺める。


「全く、賢者様ともあろうお方が、何ですかこの出鱈目は! 『魔族の進撃に対する対処:魔法に干渉する術式を書き換え、全部弾け飛んだ。詳細は俺の感覚に依るところが大きいので、言語化は不可能。よって、この件は解決済みとする』……誰もこんな感想文、求めてないんですよ!」


「いや、書けって言うから……」


「なら、必要な情報を書くべきでしょう! どうせ昔もこうやって適当なことばかり書き散らしたから、賢者の文献が忘れ去られていったんじゃないんですか!?」


「やめてくれ、文献の否定はしないでくれ。難しいんだよ、ああいうのは……」


イリノイの正論パンチに、俺は意気消沈だ。1500年前の文献が残っていないのは、俺のせいじゃない……たぶん。


「イリノイなら分かってくれると思ったのに。……もう誰も俺を賢者として扱ってくれないじゃないか」

思わず本音が漏れる。だが、彼女の追撃は止まらない。


「それとこれとは別問題です!」


「……大丈夫ですよ、賢者様。私はあなたの味方です」


そこで余計な口を挟んできたのは、レイラン教の教皇になったばかりのミズーリだ。


「……何が賢者の崇拝組織だよ。この前、教皇宮殿で俺のこと『バカ』って言ってただろ」


「あはは……。あれは、その、ノーカウントでっ!」


引きつった笑顔を浮かべるミズーリ。どいつもこいつも、都合のいい時だけ賢者扱いしやがって。


「もう嫌だ……。俺ばっかり現場仕事して、戻れば書類の山……もうどこにも行かないからな」


俺は机に顔を伏せた。


「行かないも何も、貴方が動くから事件が起きてるんじゃないかってくらいの頻度ですけどね」

アリゾナの冷ややかなツッコミが追い打ちをかける。


「もういやだぁぁぁぁ」


その後、イリノイによる「徹底指導」という名の搾取をたっぷりと受けた俺は、寮のベッドに文字通り倒れ込んだ。


賢者への道は、魔王を倒すより遥かに険しいらしい。



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