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七度転生した大賢者、今世では剣士として無双します 〜魔法全盛の世界で剣を選んだ理由〜  作者: ねむのき 圓
8章 勇者と勇者

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大混戦・・・囚われた男

死体を見せつけられても、魔族たちは微動だにしなかった。

絶望を与えるはずの「個体」は、奴らの冷笑にかき消される。


直後、洞窟の壁面に空いた無数の抜け穴から、地を埋め尽くすほどの魔物が溢れ出した。

大空洞の魔族は、こちらの予想を遥かに凌駕する戦力を隠し持っていたのだ。


「まだまだこちらに分がある! 隊列を乱すな! 私に続け!!」

カイルは叫び、騎士たちの士気を強引に繋ぎ止める。

しかし、四方八方から飛びかかる魔物の群れに、騎士軍は瞬く間に飲み込まれ、戦場は敵味方が入り乱れる泥沼の混戦と化した。


「やばいぜ、どうするルーシュ!?」

ロロが、迫りくる魔物を弾き飛ばしながら声を荒らげる。


「ここも持たない。空洞内を殲滅しながら裏に回るぞ」


「中がどうなっているか分からないのですよ!」

ヴィニーの悲鳴のような制止を無視し、俺は壁に手を当てて索敵を行う。


「……駄目だ。上下左右、入り乱れすぎていて正確なルートが絞れん」

「来ますよ!」

アーサーが身構えると同時に、奥の暗闇から魔物の群れが牙を剥いた。


「ここは広くも狭くもない。俺たちにはちょうどいい広さだ。このまま殲滅して奥へ抜ける!」

「本軍はどうすんだよ!」


ロロの問いに、俺は一度だけ、乱戦の渦中にいる勇者の方を振り返った。

味方から必死の援護を求められても、カイルは一顧だにしない。

あいつは戦うことよりも、焦った様子で拠点の「何か」を探し、視線を彷徨わせていた。


(カイル……お前、何をしている?)


その時、俺の意識が捉えた。 最奥の、行き止まりとなっているはずの狭い空洞に、微かな、だが確かな**「人間の気配」**を。


「ルーシュ! 奥に進むぞ!」

魔物を一掃したロロが報告してくる。


「……お前たちはそのまま進め。そっちは任せる」

「ここでかよ……!」


俺は仲間の制止を背に、カイルが向かおうとしている「人のいる気配」へと駆け出した。 カイルが戦場を捨ててまで、必死になる「何か」が、あそこにある。


壁を蹴り、俺は暗がりの奥へと姿を消した。


人間がいる部屋に気づいたカイル


「み、見つけた……ハァハァ」

肩で息をするカイルの視線の先には、壁際に鎖で繋がれ、ボロボロになった男がいた。

カイルは迷わず、構えていた槍を男の喉元へ突き出す。


〈カキンッ!〉

「お前、何が目的だ!?」

間一髪、俺の指先から放たれた斬撃が槍を弾く。


「あ、あぁ……ルーシュくん!? ど、どいてくれ! 俺は……俺はそいつを殺して、本物の勇者になるんだ!」

カイルの瞳は、野心と恐怖で完全に濁っていた。

畏怖すら覚えるその狂態を、鎖に繋がれた男は冷めた目で見つめている。


「助かった。ついでに、この鎖を外してくれないか?ちょっとそいつに騙されてな」


〈ゾクッ〉

その男から溢れ出した怒りは、背筋が凍るほどの強大な魔力。

「……この感じ。お前、勇者か?」


「なんだそれは。いいから外せ」


俺は迷いを捨てた。一か八か、男を拘束する鎖を断ち切る。

その瞬間。

俺の動体視力すら置き去りにする速度で、男が横をすり抜けた。


「ぐはっ!」

振り向くとカイルの頭が壁にめり込んでいた。


「よくも騙したな」


「……どうなってるんだよ?」

おれは状況が飲み込めない


「お前、強そうだな。ここの魔物全員殺るが、手伝ってくれるか?」


無茶な提案だ。だが、この男なら「やれる」という確信があった。

「……いいだろう。お前を信用する」

鞘を握る手に力が入る。


「ん? お前は魔術師ではないのか?」

「……剣士だ」

「まぁいい。遅れるなよ」


男が地を蹴った。

その後の戦いは、これまでの人生で経験したことのないものだった。

俺が騎士軍の窮地を察すれば、男は俺が動きやすいように魔物を蹴散らし、俺が補助に回れば、男は一切の迷いなく背中を預けてくる。


(……この男、やりやすい。レオと戦っていた時に近い。いや、それ以上か?)


パチンッ、と指を鳴らし、俺は男が撃ち漏らした(というより、俺に任せた)敵を仕留めていく。


「お前といると戦いやすいな。もっと飛ばせそうだ」

「……こっちの身にもなれよ」

そう言うと魔力量がまた上がる

(まだ上がるのか?この男今までの勇者より魔力量が半端じゃない)



「騎士軍! 体勢を整えろ! 俺たちが奥を叩く、お前たちは漏れた魔物の処理をしろ!」

俺は混乱する騎士たちに怒号を飛ばし、無理やり役割を叩き込む。


「魔族はここだな!」

男は、俺の指示など待たずに空洞のさらに奥、禍々しい魔気が渦巻く大空間へと突っ込んでいった。


「おい、好き勝手動きやがって……!男の背後に迫る魔物を一掃する。

周囲の援護、男の補助、さらには全方位の索敵。これほどまでに俺の「先」を読み、勝手に戦場を切り開いていく勇者は、後にも先にもこいつだけだろう。


大空洞の中枢。

そこには幹部であるガザとミリスを失ってもなお、血気に逸る魔族の強者たちが群れを成していた。


「はっ! あの二人より弱そうだな、こいつら!」

不敵に笑うなり、男が魔族の密集地帯へ肉弾戦を仕掛ける。


(パチンッ!)

「気が早いんだよ! 合わせる身にもなれ!」

俺は指を鳴らし、男の突撃で生じた「隙」に的確に魔法を叩き込む。男が拳一つで魔族を次々と薙ぎ払い、爪で引き裂き、その胸を貫く。返り血を浴びて猛るその姿は、どちらが魔族か分からないほどの峻烈さだった。


「……おい、一体逃げたぞ」

男が手に付いた血を無造作に拭いながら、顎で洞窟の脇道を指した。


俺は目の前の魔族を最後の一撃で仕留め、息を整えずに答える。

「……あっちは大丈夫だ」


――その直後。

**「バゴォォン!!」**

凄まじい衝撃音と共に、逃げたはずの魔族が煙を上げながら吹っ飛んできた。


「おう、ルーシュじゃねぇか。こっちは片付いたぜ」

岩煙の中から現れたのは、ロロだった。

その背後には、仲間たちの姿もある。


「ルーシュさんがいるってことは、これで終わりですかね?」

アーサーは既に全身を《鎧状態》へと完全変身させており、その重厚な佇まいで通路を封鎖していた。


「つ、つかれましたぁ……もう一歩も動けません……」

最後尾から、杖を杖代わりにしてヴィニーがフラフラと現れる。


一連の連携を目の当たりにした男が、口の端を吊り上げた。

「……いいチームだ」

それだけ言い残すと、男は未だ壁に埋まっているカイルの方へと、迷いのない足取りで戻っていった。


「……誰だ、あれ? とんでもない魔力だったけど」

ロロが呆然とした様子で、男の背中を見送る。


「わからん……」

俺は短く答えたが、内心では冷や汗をかいていた。あの男、俺が「剣士」を装いながら裏で魔法を操作していることに、気づいている節がある。


「っていうか、今回ルーシュ、調子悪くない? 知らないことばっかだな」

「だって…ただの残党狩りだって言ってたのに」

教皇の件から時間がなかったのもあり準備を怠ったのは事実だった。


本物の「勇者」の再来。そしてカイルの裏切り。

ドロリス大空洞の戦いは、ここからさらに厄介な局面を迎えようとしていた。

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