作戦会議・・・開戦
その夜、カイルの天幕へ向かうにあたり、俺は一人、学生からメンバーを呼び寄せた。
「……何で私が、こんなむさ苦しい場所に同行しなきゃいけないんですかね?」
眼鏡のブリッジを指で押し上げながら、不服そうに吐き捨てたのはリントだ。
学園4位の実力者。魔法の才はあるが、慇懃無礼で鼻持ちならない性格をしている。俺が「賢者」であることなど露ほども知らないが、実力だけは認めざるを得ない男だ。
「お前は学生のまとめ役だ。俺たちが自由に動くには、お前の指揮が必要なんだよ」
俺の言葉に、リントは「やれやれ」と肩をすくめた。
天幕の中には、勇者カイルと数名の騎士長が地図を囲んでいた。
「おお、来たねルーシュくん。それに……そちらは?」
「リントです。学生たちの指揮は彼に任せています」
カイルは満足げに頷き、机上の地図を指し示した。
「では、作戦を伝えよう。ドロリス大空洞の周囲は、現在、散り散りになった魔物が徘徊する危険地帯と化している。残った魔族どもは空洞内に籠城しているようだが、まずはこの外周を掃除する必要がある」
カイルが立てた作戦はこうだ。
まず、騎士団を中心とした**先行隊**が周囲の魔物を次々と削り、進路を確保する。
頃合いを見てカイル本人が前線に加わり、一気に大空洞の入口へと赴く。
学園の生徒たちは、確保された入口の護衛および後方支援を担当。
「学生メンバーはリント、君が責任を持って入口を固めてくれ」
「……承知いたしました。適材適所というわけですね」
リントが冷ややかに応じる。これで学生側の統制は取れる。
「そしてルーシュくん、君たち四人は先行隊に紛れ、先行して隠密待機してほしい。機を見て動く独立遊軍だ」
「了解です」
俺にとっては好都合だ。カイルの目の届かないところで動ける。
「入口に到達した際、我々が連れてきた『あの死体』を敵の目の前で見せつける。奴らの士気が底を突いた瞬間、一気に正面突破を仕掛ける! これが今回の『勇者の戦い』だ!」
カイルは自信満々に拳を叩きつけた。
「……死体を見せつけ、正面突破。分かりやすい作戦ですね」
リントが皮肉げに呟く。
「はっはっはっ! 勝利に必要なのは、敵を絶望させる圧倒的な力だよ。では解散だ。明日の夜明けと共に開始する!」
天幕を出た後、リントがボソリと毒を吐いた。
「あの勇者様、自分の見せ場を作ることしか考えていませんね。……私たちは比較的安全、入口は私が『完璧に』守っておきますから」
「ああ、頼んだよ」
リントと別れ、俺は暗い森の奥を見つめた。
徘徊する魔物、籠城する魔族。そして、見せしめにされる死体。
作戦自体は理にかなっているように見えるが、やはり何かが引っかかる。
「……さて、裏で何が起きているか、じっくり拝ませてもらうか」
その晩カイルは一部始終を思い出していた。
ガザとミリスに追い詰められ絶望な状況を・・・
夜明け。
薄暗い霧が森を包む中、ドロリス大空洞への総攻撃が開始された。
先行隊が森の魔物を掃討し、騎士団の怒号が響き渡る。だが、俺はその喧騒から離れ、独立遊軍として周囲の気配を慎重に探っていた。
「……おかしいな」
俺の呟きに、隣を並走するロロが反応する。
「何がだ?」
「魔族の拠点だぞ。残党狩りなのに周囲に魔族が少ない。襲撃が知っていたかのように」
俺が感じていた違和感。
あいつには確かに傭兵上がりの腕はある。だが、ドロリスの幹部であるガザやミリスを二体同時に相手にして、無傷で生還できるほどではない。
(あいつ、何をした……?)
「ルーシュさん入口です」
相手の抵抗も少なく意図も簡単に入口に到着した。
アーサーが指差す先、巨大な岩山に口を開けたドロリス大空洞が見えてきた。
先行隊が入り口を確保し、予定通りリント率いる学生たちが周囲の守備に就く。
そして、馬上で燦然と輝く金ピカの鎧――カイルが、悠然と前線へ現れた。
「皆のもの、よくやった! 予定より早い、このまま突き進めば我々の勝利は確実だ!!」
カイルの後ろでは、荷馬車に積まれたあの「魔族の死体」が、見せしめのように晒されている。だが、洞窟の奥は静かで不気味な空気を醸し出している。
「さあ、魔族どもよ! 貴様らの仲間の成れ果てを見て、絶望するがいい!」
カイルが叫び、魔族の死体を洞窟の入口へ放り投げる。
その瞬間、洞窟の奥から、地響きのような「笑い声」が漏れ聞こえてきた。




