出発・・・勇者予定
ドロリス大空洞へ向かう残党討伐隊は、百名ほどの軍勢となっていた。
俺たち四人を除けば、その殆どが騎士軍。補助として二十名ほどのギルド員と、経験を積むためのRVR学園生徒が十名ほど同行している。
出発前、馬上の勇者が声を張り上げた。
「皆のもの! 今日は急な要請にも関わらず、こうやって集まっていただき感謝する。私のことを偽物だと疑っているものも居るようだが、それは至極当然だと思う。だが魔族の討伐、これは事実だ! その残りを今日から討伐に向かう。あのガル様ですら手を焼いた魔族軍、残党だろうと荒れ狂った者たちは決して楽に倒せる相手ではない。しかし! 今日は私がいる!! お前たちの前を走る勇者が! その目に焼き付けろ! 勇者の勇姿を! そしてこれから続く魔王の討伐まで、お前たちは私の初めての軍だ。胸を張って突き進め! 行くぞぉぉ!!」
「おおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
軍は一斉に地鳴りのような歓声を上げた。
士気は最高潮。カイルの言葉に、兵士たちの瞳には熱が宿っている。
「おお、すごいな。勇者っていうのは本当かもしれんな」
俺は出発前の勇者の鼓舞を何度も聞いてきたが、ここまで鮮やかに士気を上げられるのは簡単にできることではない。
「まぁ、気持ちのいいスタートは切ったな」
ロロも納得のいく様子だった。
「あの金ピカ装備が悪いんですよ」
アーサーだけは、その眩しすぎる装備に文句を垂れている。
「えぇ? かっこいいだろ、あれ!?」
ロロは案外、ああいう派手なのが好みらしい。
「さぁて、ここから本番だ」
「で? 俺たちの立ち位置は?」
「さぁな」
「さぁなって……」
「作戦、聞いていないんだ・・・」
俺は同伴することになったが、具体的な役割は何も知らされていなかった。
「お前が聞いていないのか?」
「勇者が自分で考えているらしい」
「気になるんですけど、なぜ仕留めた魔族も連れて行くんですか?」
ヴィニーが後ろの檻を指さして言った。そこには、カイルが討ち取ったとされる魔族の姿がある。
「敵の士気を削ぐんだとさ。悪趣味だよな」
ロロはどこから仕入れたのか、俺よりも事情に詳しかった。
「よくあることだよ。指揮官を討ち取れば実質勝ちだからな。人にとっては、魔物は殲滅したほうが良い。死体でもなんでも利用して、こちらの被害を少なくする。それが戦いだ」
「そう考えると、魔族と人間、何が違うんだろうな?」
ロロの問いに、俺は静かに答えた。
「お前らは酷い時代を知らない……魔族は殺しを楽しむ。人や動物、植物等に空気中の魔力が影響して誕生したとされているが、俺が生まれたときからいるから本当のことはわからない。だが、異常な魔力が奴らを異常にさせるんだ」
「しかし、奴らも生きている……エルフやリザードマンと違って共存ができないから殺し合う。酷いもんさ」
「だから、圧倒的に数が少ないのか」
「それでも全滅にできない。それほど脅威なのさ、アイツらは」
「よく知っているね、君」
不意に後ろから声をかけられ、俺は言葉を止めた。
「え?」
「いやいや、急にすまない。勇者予定のカイルだ。君がルーシュくんかい?」
「そうですけど」
「学生の中で優秀だと聞いている。今回のまとめ役は君かな?」
「はい、一応アラバマさんにそう言われています」
「今晩、天幕に来なさい。作戦の共有をしよう。戦いのキモとなる数名を連れてきていいからね。はっはっはっ!」
カイルは豪快に笑いながら立ち去っていった。
「なんか……陽気な人ですね」
「どうだった、ルーシュ」
去りゆく背中を見つめながら、俺は拭えない不快感を反芻していた。
「わからん。だが、何かがおかしい。何だ、この違和感は……」




